サイド蓮

俺が演じるみのるといい、キョーコちゃんが演じるまゆみといい、辛い幼少期を過ごしている。そんな二人はそれぞれ自分自身を守る術を身に付けてしまっている。みのるは身構え全てを拒絶して一人になる事で傷つかない事を憶えて、まゆみは人の期待に応える事で一生懸命自分の存在価値を見いだそうとしている。二人とも装う事で自分のコアを隠している。経緯も方向も違うがやっている事は似ているのだ。そして、俺もキョーコちゃんも自分の演じる役に振り回されてしまっている…。『俺達、プロ失格なのかな…。』ふとそんな迷いが浮かんで来る。俺もキョーコちゃんも役が憑くタイプ。だから役柄と自分の気持ちがシンクロするのは致し方ない事。だが、自分自身が振り回されてしまってはいけないのに。俺はみのるの持つ闇に引きずられ、キョーコちゃんはまゆみを傷つける言葉に傷ついている。
「敦賀さん、ありがとうございます…」
俺の腕の中からキョーコちゃんが俺を見上げてくる。涙はもう止まっていたが目は真っ赤に腫れていた。俺は目の縁に残っている涙を首にかけていたタオルで押さえてあげながら「キョーコちゃん、泣きすぎ(笑)」とからかうようにいう。すると「ごめんなさい…」と目尻を下げてシュンと俯いてしまう。
俺はまた泣かれるんじゃないかと焦る気持ちをなんとか隠しながら「冗談だよ。でも、他の男の前では泣かないでね。君の泣く場所はここ、俺の腕の中だけにして?」
俯いたままのキョーコちゃんは耳まで真っ赤にしている。今どんな顔をしているのか見たいと思ったけれど、それは出来なかった。キョーコちゃんが俯いたまま俺の胸に頭を預けてしまったからだ。俺のシャツの胸辺りをキュッと小さな手で握って俺に身体を預けてくる。俺はその温もりを受け止めてまたゆっくり髪を鋤いてやる。キョーコちゃんは俺の胸に顔を埋めたまま「バカ」と小さく呟いて、それでも「大好き」と続く。
「えっ?」俺は驚いて一瞬固まるがそのすぐあとから嬉しさが込み上げて溢れ出す。今、この腕の中の小さな温もりを絶対に大切にすると、俺はまた心に誓った。