サイドキョーコ
まゆみってなんだか凄く辛い子供時代を送ってるのね。まゆみの過去を振り返る回の台本を読みながらキョーコはため息を吐く。
****
まゆみが『高橋まゆみ』になってから母親はますますまゆみを遠ざけるようになった。まゆみはその意味も理由も解らずに、ただ母親に嫌われたくなくて、母親の顔色を伺いながら息を潜めるようにして過ごしていた。
数日後、まゆみは小さな鞄を持って家を出ていこうとする母親を見つけた。「お母さんどこいくの?」と聞いても答えは返らず母親は歩みも止めない。何度呼び掛けても返事は返らない。引き留めようと服の裾を引っ張った時、やっと母親の足が止まった。まゆみは嬉しくて満面の笑みで母親を見上げる。
「お母さん、どこいくの?」
母親の目はこれまでの中で一番冷たくまゆみを見下ろしていた。まゆみはその冷たく射抜くような視線にギョッとしてそのまま固まる。母親の服の裾を掴んでいた小さな手は、母親がまた歩き始めた事で難なく外れ、力なく垂れ下がるしかなかった。
しばらくぼんやりと遠くなる母親の背中を眺めるしか出来なかったまゆみ。大きく見開かれた目からは涙が次々溢れて頬をつたう。
「…置いてかないで、お母さん」自分の口から出た小さな声にハッとして、まゆみは精一杯大きな声で叫ぶ。
「お母さん!置いてかないでっ!」「置いてかないで!」「いい子になるから!」「100点とるから!」「お手伝いもちゃんとするから!」「お母さん!お母さん!」
叫びながらふらふらと歩き出し、歩みはどんどん早くなり駆け出す。が、躓いて転んでしまう。転んだ格好のまままゆみは必死で叫ぶ。「お母さん!」「お母さん!」…。
母親の背中はまゆみの視界から消え、残されたまゆみは泣くことしか出来なかった。
高橋家の使用人が見つけた時には、まゆみは地面に突っ伏したまま泣きつかれて眠っていた。転んだ時に擦りむいて手足は痛々しく、でも、涙や鼻水や泥でぐちゃぐちゃに汚れた顔を見てしまった使用人はなんとも表現出来ないもどかしさに抱き上げたまゆみを強く抱きしめる事しか出来なかった。
その日からまゆみは高橋家の長女として生活がするようになった。まゆみの部屋は離れではなく母屋の二階に宛がわれ、使用人からは『お嬢様』と呼ばれるようになった。叔父夫妻はいつもまゆみに優しく接してくれた。元々両親から受け継いだ端正な顔立ちはいつも輝いていた。そして皆が羨むお嬢様になった。
まゆみってなんだか凄く辛い子供時代を送ってるのね。まゆみの過去を振り返る回の台本を読みながらキョーコはため息を吐く。
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まゆみが『高橋まゆみ』になってから母親はますますまゆみを遠ざけるようになった。まゆみはその意味も理由も解らずに、ただ母親に嫌われたくなくて、母親の顔色を伺いながら息を潜めるようにして過ごしていた。
数日後、まゆみは小さな鞄を持って家を出ていこうとする母親を見つけた。「お母さんどこいくの?」と聞いても答えは返らず母親は歩みも止めない。何度呼び掛けても返事は返らない。引き留めようと服の裾を引っ張った時、やっと母親の足が止まった。まゆみは嬉しくて満面の笑みで母親を見上げる。
「お母さん、どこいくの?」
母親の目はこれまでの中で一番冷たくまゆみを見下ろしていた。まゆみはその冷たく射抜くような視線にギョッとしてそのまま固まる。母親の服の裾を掴んでいた小さな手は、母親がまた歩き始めた事で難なく外れ、力なく垂れ下がるしかなかった。
しばらくぼんやりと遠くなる母親の背中を眺めるしか出来なかったまゆみ。大きく見開かれた目からは涙が次々溢れて頬をつたう。
「…置いてかないで、お母さん」自分の口から出た小さな声にハッとして、まゆみは精一杯大きな声で叫ぶ。
「お母さん!置いてかないでっ!」「置いてかないで!」「いい子になるから!」「100点とるから!」「お手伝いもちゃんとするから!」「お母さん!お母さん!」
叫びながらふらふらと歩き出し、歩みはどんどん早くなり駆け出す。が、躓いて転んでしまう。転んだ格好のまままゆみは必死で叫ぶ。「お母さん!」「お母さん!」…。
母親の背中はまゆみの視界から消え、残されたまゆみは泣くことしか出来なかった。
高橋家の使用人が見つけた時には、まゆみは地面に突っ伏したまま泣きつかれて眠っていた。転んだ時に擦りむいて手足は痛々しく、でも、涙や鼻水や泥でぐちゃぐちゃに汚れた顔を見てしまった使用人はなんとも表現出来ないもどかしさに抱き上げたまゆみを強く抱きしめる事しか出来なかった。
その日からまゆみは高橋家の長女として生活がするようになった。まゆみの部屋は離れではなく母屋の二階に宛がわれ、使用人からは『お嬢様』と呼ばれるようになった。叔父夫妻はいつもまゆみに優しく接してくれた。元々両親から受け継いだ端正な顔立ちはいつも輝いていた。そして皆が羨むお嬢様になった。