サイド蓮
俺は困惑している。ドラマの撮影は順調で、俺が演じている主人公のみのるの気持ちはよく解る。よく解りすぎていやになるくらいに。人が羨むようなものをたくさん持ち備えているくせに自分が不幸の中心にいるとでもいうようなみの。自分に向けられる羨望や好意の眼差しを疎み、近づく人達をやんわりと拒絶する。一番親しいであろう友人上野に対しても心を開いてはいない。なんと小さくて面白味のない奴だと思う。なのに、台本を読まなくてもみのるの動きが読めてしまう。俺はみのるとシンクロしている…?いや、まるでみのるが俺自身であるかのように彼の悩みを俺自身が抱えている。みのるが傷つくと俺の心が軋む。『役が憑いている』と言ってしまえばプロとしては最高の状態だが、多分これは違う。俺のコアがみのるのそれと共鳴しているんだ。俺が失った過去にその答えがあるのだろうか…。それは思い出すべき内容なのだろうか。一体何が俺をみのると結びつけているのだろうか。
答えの出ない思考の渦に飲まれかけていた俺にキョーコちゃんが声をかけてくれた。
「敦賀さん、お疲れさまでした。今日の予定はこれで終わりだそうですよ。」
「うん、お疲れさま。今日は一日ハードだったね。早く帰ってゆっくりしようか?」
「はいっ!」
元気で可愛らしいキョーコちゃんの声が耳から胸に染み込んでくる。さっきまで囚われていた困惑が薄らいでいく。彼女の存在が俺を俺として存在させてくれるような気がする。キョーコちゃんがいてくれれば、俺はこの思考の渦に飲まれてしまう事はないのではないかと思える程に、俺はキョーコちゃんに依存しているようだ。だめだなぁ、護るべき相手に依存しているなんて格好悪い。
俺は情けない自分に思わず苦笑する。そんな俺を見てきょとんとし顔で「どうかしましたか?」と見上げてくるキョーコちゃんに「何でもないよ。君の元気が俺まで元気にしてくれるよ、ありがとう。」と返せば、キョーコちゃんは一瞬で耳まで真っ赤に染めて「ソソっ、ソレハヨォゴザイマシタ!」とそっぽを向いてしまう。そんなキョーコちゃんも可愛いよ。この子が何をしても何を言っても、俺は『可愛い』と思ってしまうのだろう。
俺達は監督やスタッフの皆さんに挨拶を済ませて帰り支度を整える。セバスチャンの運転する車で社さんを自宅へ送った後にゲストハウスに戻る。予想以上に消耗している事を自覚する。撮影はまだ始まったばかり、頑張れ、俺!
俺は困惑している。ドラマの撮影は順調で、俺が演じている主人公のみのるの気持ちはよく解る。よく解りすぎていやになるくらいに。人が羨むようなものをたくさん持ち備えているくせに自分が不幸の中心にいるとでもいうようなみの。自分に向けられる羨望や好意の眼差しを疎み、近づく人達をやんわりと拒絶する。一番親しいであろう友人上野に対しても心を開いてはいない。なんと小さくて面白味のない奴だと思う。なのに、台本を読まなくてもみのるの動きが読めてしまう。俺はみのるとシンクロしている…?いや、まるでみのるが俺自身であるかのように彼の悩みを俺自身が抱えている。みのるが傷つくと俺の心が軋む。『役が憑いている』と言ってしまえばプロとしては最高の状態だが、多分これは違う。俺のコアがみのるのそれと共鳴しているんだ。俺が失った過去にその答えがあるのだろうか…。それは思い出すべき内容なのだろうか。一体何が俺をみのると結びつけているのだろうか。
答えの出ない思考の渦に飲まれかけていた俺にキョーコちゃんが声をかけてくれた。
「敦賀さん、お疲れさまでした。今日の予定はこれで終わりだそうですよ。」
「うん、お疲れさま。今日は一日ハードだったね。早く帰ってゆっくりしようか?」
「はいっ!」
元気で可愛らしいキョーコちゃんの声が耳から胸に染み込んでくる。さっきまで囚われていた困惑が薄らいでいく。彼女の存在が俺を俺として存在させてくれるような気がする。キョーコちゃんがいてくれれば、俺はこの思考の渦に飲まれてしまう事はないのではないかと思える程に、俺はキョーコちゃんに依存しているようだ。だめだなぁ、護るべき相手に依存しているなんて格好悪い。
俺は情けない自分に思わず苦笑する。そんな俺を見てきょとんとし顔で「どうかしましたか?」と見上げてくるキョーコちゃんに「何でもないよ。君の元気が俺まで元気にしてくれるよ、ありがとう。」と返せば、キョーコちゃんは一瞬で耳まで真っ赤に染めて「ソソっ、ソレハヨォゴザイマシタ!」とそっぽを向いてしまう。そんなキョーコちゃんも可愛いよ。この子が何をしても何を言っても、俺は『可愛い』と思ってしまうのだろう。
俺達は監督やスタッフの皆さんに挨拶を済ませて帰り支度を整える。セバスチャンの運転する車で社さんを自宅へ送った後にゲストハウスに戻る。予想以上に消耗している事を自覚する。撮影はまだ始まったばかり、頑張れ、俺!