サイドキョーコ
食事から帰るとさっきの女優さんたちの姿を見つける事は出来なかった。化粧室で囲まれた時、凄く怖かった。でも、心の片隅で『またか…』という気持ちがあった。こういう状況は初めてじゃないのかしら?
彼女たちの言い分を聞いているとすぐにたどり着く簡単な答え…『やきもち』
私は心の中で小さなため息をつく。私に何かしても状況なんて変わりはしないのに…。
食事に行く前の事をぼんやりと考えていた私に監督が声をかけて下さった。
「キョーコちゃん、気にしているのかい?」「いえ、あの…、はい。」つい俯いてしまう。
「まぁ、自業自得だよ。文句があるなら結果で示さなきゃこの世界じゃ生き残れない。運と実力が伴わなければ結果を出せない。それだけの事さ。」
「はぁ…。」
「君の演技力は俺は買っている。それは君の実力だ。あの状況で瑠璃に助けられたのは君の運だ。だから今、君はここにいる。」
「私の実力と…運…。」
「そうだ。君は事務所から全面的なバックアップは受けてないんだろ?」
「はい。」
「それで蓮と連ドラで共演なんて凄い話さ。これで結果を出せればまた次の道が開ける。その積み重ねが君自身を作っていくんだ。」
「私、を…作る、ですか。」なんだか胸の奥に温かいものを感じる。
「まぁ、頑張ってくれや。俺は妥協はしない。俺の要求にしっかり応えてくれ。」
新開監督の言葉、その積み重ねが私自身を作っていく…。今の私は空っぽで、京子を演じる事でなんとかなんとか自分を保っている。でも、今から自分を作るというのならそれは大変な事に思えるが多分誰もが無意識にやっている事。一つひとつを丁寧に大事にしていく事が確かな『私』への近道になっていくように想う。京子として過ごすこれから、キョーコを探すこれから。その全てが私。記憶という依り代を失って何もかもが怖くて仕方ないけれど、損得なしど前だけを見る事ができる貴重なチャンスは今なんだ。
「キョーコちゃん、ぞろぞろ行こうか。」敦賀さんが声をかけてくれる。私は一人じゃない。この素敵で優しい人がいてくれる。モー子さんやマリアちゃん、社さん、セバスチャン、社長…、それだけじゃなく、これから関わる色んな人の中で京子は生きている。そしてキョーコも生きている。強くなりたい。今目の前に立っているこの人と並んで歩きたい。私は、差し出された敦賀さんの手にそっと自分の手を重ねて笑顔を返す。立ち上がって、一歩前へ踏み出した。
食事から帰るとさっきの女優さんたちの姿を見つける事は出来なかった。化粧室で囲まれた時、凄く怖かった。でも、心の片隅で『またか…』という気持ちがあった。こういう状況は初めてじゃないのかしら?
彼女たちの言い分を聞いているとすぐにたどり着く簡単な答え…『やきもち』
私は心の中で小さなため息をつく。私に何かしても状況なんて変わりはしないのに…。
食事に行く前の事をぼんやりと考えていた私に監督が声をかけて下さった。
「キョーコちゃん、気にしているのかい?」「いえ、あの…、はい。」つい俯いてしまう。
「まぁ、自業自得だよ。文句があるなら結果で示さなきゃこの世界じゃ生き残れない。運と実力が伴わなければ結果を出せない。それだけの事さ。」
「はぁ…。」
「君の演技力は俺は買っている。それは君の実力だ。あの状況で瑠璃に助けられたのは君の運だ。だから今、君はここにいる。」
「私の実力と…運…。」
「そうだ。君は事務所から全面的なバックアップは受けてないんだろ?」
「はい。」
「それで蓮と連ドラで共演なんて凄い話さ。これで結果を出せればまた次の道が開ける。その積み重ねが君自身を作っていくんだ。」
「私、を…作る、ですか。」なんだか胸の奥に温かいものを感じる。
「まぁ、頑張ってくれや。俺は妥協はしない。俺の要求にしっかり応えてくれ。」
新開監督の言葉、その積み重ねが私自身を作っていく…。今の私は空っぽで、京子を演じる事でなんとかなんとか自分を保っている。でも、今から自分を作るというのならそれは大変な事に思えるが多分誰もが無意識にやっている事。一つひとつを丁寧に大事にしていく事が確かな『私』への近道になっていくように想う。京子として過ごすこれから、キョーコを探すこれから。その全てが私。記憶という依り代を失って何もかもが怖くて仕方ないけれど、損得なしど前だけを見る事ができる貴重なチャンスは今なんだ。
「キョーコちゃん、ぞろぞろ行こうか。」敦賀さんが声をかけてくれる。私は一人じゃない。この素敵で優しい人がいてくれる。モー子さんやマリアちゃん、社さん、セバスチャン、社長…、それだけじゃなく、これから関わる色んな人の中で京子は生きている。そしてキョーコも生きている。強くなりたい。今目の前に立っているこの人と並んで歩きたい。私は、差し出された敦賀さんの手にそっと自分の手を重ねて笑顔を返す。立ち上がって、一歩前へ踏み出した。