サイド蓮
俺が演じるのは佐伯みのる。星華大学理学部3回生。容姿端麗、頭脳明晰で、佐伯カンパニーCEOの嫡男。その見た目と肩書きに興味を持たない女性はいない。みのるは不本意にも毎日の様に女性からの告白を受ける。だが、みのるは誰にも靡かない。いや、心を許さない。みのるは知っていて。自分に近付いてくる者達はみのるの容姿や頭の良さ、そして父親の肩書きに興味がある事を。みのるがどんな人間で、何を見て何を聞いて、何を感じているのか…。そんな事には一切興味がない事に悔しさと反抗心と、そして諦めと絶望を抱いていた。
台本を読んである程度『佐伯みのる』を理解していたつもりだった。しかし、撮影本番でみのるを憑けて演じていると、彼の苛立ちや焦り、悔しさや絶望がまるで自分のモノのようにダイレクトに心に響いてくる。『お前はあいつの息子だろ?』『しっかりしないと親の顔に泥をぬっちまうぜ』
俺は一生懸命考えて俺に出来る最大限の努力を惜しみはしないのに、何をやっても俺自身への評価にはならない。上手く出来れば『あいつの息子だから』と誉められ、上手くできなければ『あいつの息子なのに』と罵られる。俺は、俺自身は『あいつ』の傘の下の居る事しかできないちっぽけな存在にすぎない。実は俺じゃなくても『あいつ』の傘の中にいればそれでいいんじゃないかとまで思い始めた。
この思考のループがみのるのものなのか俺のものなのか段々境界線が曖昧になってくる。段々考える事さえ辛くなってこのまま全てを諦めてしまおうかと思いかけた時、俺の手を強く引っ張る感触に少し思考が停止する。だが、また不の思考の渦にのまれかける。そんな俺の耳に飛び込んでくる、鈴がなるような可愛らしい声…。
「…さん、敦…賀、さん?敦賀さんっ!」
俺はハッとして我に返る。するとキョーコちゃんが俺の服の手を掴んで揺すりながら必死で呼びかけている。俺は空いている方の手で彼女の肩を引き寄せて胸に閉じ込めた。
「敦賀さん、どこに行ってたんですか?」
「よく解らない。でも暗くて寂しいところだった。」
「一人で行くなんてずるいですよっ!」
「ごめんね、気をつけるよ…」
「お帰りなさい、敦賀さん。よかった…」キョーコちゃんの頬を一筋涙が零れて落ちた。
「ただいま、ありがとう。」
俺はもう一度キョーコちゃんを強く抱き締めた。
俺が演じるのは佐伯みのる。星華大学理学部3回生。容姿端麗、頭脳明晰で、佐伯カンパニーCEOの嫡男。その見た目と肩書きに興味を持たない女性はいない。みのるは不本意にも毎日の様に女性からの告白を受ける。だが、みのるは誰にも靡かない。いや、心を許さない。みのるは知っていて。自分に近付いてくる者達はみのるの容姿や頭の良さ、そして父親の肩書きに興味がある事を。みのるがどんな人間で、何を見て何を聞いて、何を感じているのか…。そんな事には一切興味がない事に悔しさと反抗心と、そして諦めと絶望を抱いていた。
台本を読んである程度『佐伯みのる』を理解していたつもりだった。しかし、撮影本番でみのるを憑けて演じていると、彼の苛立ちや焦り、悔しさや絶望がまるで自分のモノのようにダイレクトに心に響いてくる。『お前はあいつの息子だろ?』『しっかりしないと親の顔に泥をぬっちまうぜ』
俺は一生懸命考えて俺に出来る最大限の努力を惜しみはしないのに、何をやっても俺自身への評価にはならない。上手く出来れば『あいつの息子だから』と誉められ、上手くできなければ『あいつの息子なのに』と罵られる。俺は、俺自身は『あいつ』の傘の下の居る事しかできないちっぽけな存在にすぎない。実は俺じゃなくても『あいつ』の傘の中にいればそれでいいんじゃないかとまで思い始めた。
この思考のループがみのるのものなのか俺のものなのか段々境界線が曖昧になってくる。段々考える事さえ辛くなってこのまま全てを諦めてしまおうかと思いかけた時、俺の手を強く引っ張る感触に少し思考が停止する。だが、また不の思考の渦にのまれかける。そんな俺の耳に飛び込んでくる、鈴がなるような可愛らしい声…。
「…さん、敦…賀、さん?敦賀さんっ!」
俺はハッとして我に返る。するとキョーコちゃんが俺の服の手を掴んで揺すりながら必死で呼びかけている。俺は空いている方の手で彼女の肩を引き寄せて胸に閉じ込めた。
「敦賀さん、どこに行ってたんですか?」
「よく解らない。でも暗くて寂しいところだった。」
「一人で行くなんてずるいですよっ!」
「ごめんね、気をつけるよ…」
「お帰りなさい、敦賀さん。よかった…」キョーコちゃんの頬を一筋涙が零れて落ちた。
「ただいま、ありがとう。」
俺はもう一度キョーコちゃんを強く抱き締めた。