撮影中****

まゆみはまた通りがかって事を後悔した。少し離れたところでまたみのるが女性の告白をうけていた。

彼女はのんびり歩いて現れたみのるに小走りで駆け寄る。
「先輩、お忙しいところすいません。」ニコニコしながら声をかける。
「いや、大丈夫だけど、どうしたの?」みのるはあくまでも穏やかな表情で、だがこれから起こる事が解っているので内心ため息をついた。まゆみはそんなみのるは表情が見えてしまった。
彼女はそれに気付かずにみのるに話しかける。
「先輩、私…先輩の事が、好きです。」
「…そう」
「え…っ」
「……」
「あの、ずっと先輩の事、いいなぁって思ってて…」
「俺の何処が好きなの?」
「ぜ、全部ですっ!」
「…そう。」
「…あの?」
「君と俺はほとんと話をした事も無いと思うんだけど?」
「私…先輩の好みの女の子になりますから、私と付き合って下さいっ!」
「へぇ。俺の好みの女性になってくれるんだ?」みのるに目がすっと細められる。
「はいっ!だから…」
「そう。毎夜全裸で俺を満足させてくれるの?」妖艶な笑みを浮かべてみのるは彼女を見下ろす。今までデニムのポケットに突っ込んでいた左手がゆっくり動いて彼女の肩の伸びる。その手が彼女の肩に触れそうになった時、彼女は怯えた表情で一歩後ずさる。
「クスクス、逃げちゃだめだよ。俺好みの女性になるんだろ?」
「…そんな」彼女の目には涙が溜まり、零れて落ちた。
みのるは大袈裟にため息をついて両手を肩口で広げて『しょうがないな』というゼスチャーをして見せる。彼女ははらはらと涙を流しながらみのるを呆然と見るしか出来ない。
「ごめんね、君じゃ役不足だ。」みのるはそう呟くと踵を返してその場を立ち去る。残された彼女は膝を崩してその場にへたりこんで泣くしかない。みのるはそんな彼女を振り返る事はない。

まゆみはそんなみのるを可哀想だと思った。その残酷な態度と裏腹に彼女に背を向けて歩きだしたみのるの顔は曇っていた。何か苦痛に耐えるような、気を抜けば壊れてしまう自分を支えるために歯を食い縛るかのような表情。そんな辛そうな顔をしていたから、つい声をかけてしまった。

「女の子を泣かせるのが趣味なの?」
声をかけられて初めてまゆみの存在に気付いたようなみのるは一瞬で無表情になり、まゆみに視線をくれる。
「また見られたのか…。」軽い舌打ちと共に吐かれた言葉はすごく頼りなかった。