大切なもの2 （16）

「明日からはｷｮｰｺちゃんも挨拶回りを始めるから、マネージャーを付ける事になるらしいよ。」と社が言う。「えっ？でも私如き新人にマネージャーなんて勿体無いですよ。」と遠慮するｷｮｰｺ。だが、「あんた、関係者の顔やなんやが解らないままで独り歩きするつもりなの？」と奏江にとがめられてしゅんとなる。
「マネージャーはｷｮｰｺちゃんがよく知ってる人だよ。セバスチャンだから安心だろ？」と優しい笑顔の社に「はぁ…、それはそうですね。」と曖昧な返事を返すがやはり不安なのかｷｮｰｺは下を向いたままだ。
「京子さん、今は確実なサポートが必要だよ。俺には社さんがいてくれるから問題ないけど、今の君にはまだサポートがなかったからね。仕事をスムースにこなす為にもマネージャーは必要だよ。セバスチャンなら俺も安心だ。」蓮の声はすごく柔らかいのに否を許さない迫力があった。
「…はい。」渋々返事をするｷｮｰｺ。
「詳しくは明日社長室で話があるらしいから。朝はゲストハウスにセバスチャンが迎えに来るらしいから蓮も一緒に事務所へ来てくれ。」
「はい、解りました。」

そんな業務連絡の後、食事は穏やかに進んだ。温かな料理と他愛ない会話に四人の時間がゆっくり流れていく。今日1日、色々とあってそれぞれに疲れていた。渦中にいる蓮とｷｮｰｺは勿論、その痛々しい姿を近くで見守る二人も同様に疲れていた。だが、こんな穏やかな時間が気持ちのゆとりをくれる。友達という存在がどれほど大切でありがたいものなのかをみなそれとはなしに感じている。明日からまためまぐるしく日々が始まる。それに備えて束の間の休息を楽しむ四人だった。