サイド蓮

今日の仕事は雑誌の取材が一つと一週間休んだために迷惑をかけた先への挨拶回りだ。幸運な事にドラマと映画の仕事がクランクアップしたばかりだったらしく、敦賀蓮の仕事にそれほどの支障はなかったらしい。
行く先々で今朝の記者会見の事を聞かれる。
「もう大丈夫なの?」「大変な目にあったね。」「心配したよ。」「元気な顔見せてくれてありがとう。」…。親しげに、気遣わしげに声をかけて下さる皆さんの顔と名前は資料を見て覚えたから多分不自然にはならずに対応できたと思う。敦賀蓮は温厚で誰に対しても分け隔てなく接する紳士。そのキャラを演じるのはとても楽だった。誰に対しても「ありがとうございます。」「ご心配おかけしました。」「もう元気です。改めてよろしくお願いします。」と上手く言葉を紡げば難なくこなせてしまう。またまたなのか意図的になのかは解らないが、みなあの子の事には触れなかったから俺は穏やかなままでいられた。あと一つ、雑誌の取材が終われば彼女の元に戻れる。そんな想いに逸る気持ちを抑えて俺は雑誌の取材に臨んだ

記「敦賀さん、今日はよろしくお願いします。」
蓮「こちらこそよろしくお願いします。」
記「先日事故にあわれてまだ日が浅いんですが、もう体調の方は大丈夫ですか?」
蓮「はい。元々外傷もありませんでしたし、頭を強く打ったので精密検査と様子観察をという事で、少しご迷惑をおかけしちゃいました、すいません。」
記「いえ、大事に至らなくて何よりです。ところで一緒にいらした京子さんのお加減はいかがですか?」
蓮「はい、彼女も俺同様に大きな怪我なとはなくて、精密検査と様子観察です。本当に怪我なとなくて良かったと思います。」
記「ところで、今回の外出は役作りの為とおっしゃっておられましたが、どちらからお誘いしたんですか?」
蓮「誘ったのは俺ですよ。今度のドラマは舞台は東京なんですが、京子さんの演じる彼女が浜っ子って設定だったので。京子さんは京都生まれでこちらの事はさっぱり解らないと話してましたから。」
記「なるほど。」
蓮「彼女は凄く仕事に一生懸命で俺も見習わなければと思う事や改めて発見する事が多いですよ。彼女は決して天才ではないと思いますが彼女の今は努力の積み重ねです。」
記「それは…、敦賀さんが京子さんに好意をお持ちという事ですか?」

記者の顔がスクープの臭いにキラッと光った。