サイド社

記者会見の後、蓮の怒りは相当のものだった。凄い勢いで松島主任に食ってかかる蓮に共感はするが現実を知らせなければならない。二人が芸能人でなければ、せめて敦賀蓮の名前が今ほど大きくなければこんな辛い仕打ちを受ける事はなかっただろうに。
「そんな…。」と沈み込む蓮だったがソファで小さくなっているキョーコちゃんに気付いて近付いていく。キョーコちゃんの前ではこいつは完璧に敦賀蓮を演じる事ができている。そこからの二人のやり取りを俺はなるべく見ないようにした。帰ってからの二人にはずっと当てられっぱなしだからなぁ。
会議室の扉をノックする控えめな音で琴南さんがキョーコちゃんを迎えに来た事を知った俺は笑顔で彼女を迎え入れた。軽く会釈してから部屋に入ってきた琴南さんは二人の姿を見て一瞬驚いたが、主任に「最上くんを頼んだよ。」と言われると大きく頷きながら「はい」と返事をして二人に近付いた。
そろそろ移動の時間と言われ、俺も蓮に声をかける。
琴南さんは素っ気なく強い口調でキョーコちゃんを促す。琴南さんってツンデレなんだよな。可愛いけど。蓮はキョーコちゃんを立たせて琴南さんに預ける。蓮がキョーコちゃんの背中を軽く押すとキョーコちゃんの身体はふらふらとよろめきながら琴南さんの腕の中に飛び込んだ。それをしっかりと受け止める琴南さん。そんな二人を見る蓮の顔はすごく悔しそうだ。おい、蓮。琴南さん相手に嫉妬してんじゃないよ、大人気ない。…そうか、蓮は泣いてるキョーコちゃんと離れるのこれが最初なんだ。琴南さんへの嫉妬もあるけど、こんな状態のキョーコちゃんを置いていかなきゃならない自分が悔しいのか。
琴南さんに手を引かれてキョーコちゃんは会議室から出ていった。そして今は閉ざされてしまった扉を蓮は名残惜しそうに見つめている。
「蓮、移動。」
「はい。」
俺達も会議室を後にした。
移動にはタクシーを使うようにと松島主任から言われている。不自由さはあるが事故にあった直後だからその方がいいだろう。俺の隣で蓮は終始無口だった。俺は最低限今日のスケジュールを説明すると特に話しかけずに目的地に向かう。蓮は事務所を出てから何となく落ち着かない様子だ。いや、キョーコちゃんたちが会議室を出て行ってからずっと落ち着かない。相変わらず解りやすい奴だと俺は蓮に気付かれないようにため息をついた。俺の担当俳優はキョーコちゃん依存症のヘタレなんだよな。