サイド奏江

自分と敦賀さんでは各が違うと自分を卑下するこの子に『それは役の話だろう?』と敦賀さんは言ったのだそうだ。自分達自身の事ではないと言ったのだと。まだ自分達に差があると言い募ろうとするこの子に『俺は俺、君は君だ。それ以上でも以下でもない。あんな心ないバッシングに君自身が傷付く必要なんてどこにもないんだよ。』と優しく言われたのだとこの子は言った。
社長が記憶を失って間もない二人に『自分を演じろ』と命令を出した時には、なんて無茶な命令をだすのかとかなり呆れてしまった。でも、この敦賀さんがこの子に言った言葉で社長の意図が少し解った気がする。
今、敦賀さんもこの子も中身は空っぽなのだ。記憶は自分を保つ依り代。名前は外界と自分を繋ぎ、他の全てと自分を区別するための呼称。そこ全てを失った二人はそのままではエデンから出るには能わない。だが、俄に用意出来るものではない。都合のいい事に二人は俳優で演じる事が仕事。それぞれがその役柄を演じる事で苟の依り代と呼称を得る事ができる。それをしてやっとエデンから出る事が出来たという事なのだろう。そしてもう一つ、この命令には隠された意図がある。それは敦賀さんがこの子に言ったままの事。
敦賀蓮と京子にもたらされる全ての事象は全て敦賀蓮と京子に対するものであって、敦賀さんとキョーコに向けられたものではないという区別。今の中身が空っぽの二人にはエデンの外での生活はかなり辛いものとなるのは必至。彼らは剥き身で無防備な存在なのだ。だから最初から敦賀蓮・京子という着ぐるみを着せてしまう事でコアの二人を守るという意図。自社の二枚看板とまで言われるビッグネームを鎧にしてしまう社長って凄い人だと思う。あの人には敵わない、いや、逆らわない方がいいわ。私はとんでもない人の下で働いているのだと改めて怖くなった。
それはともかく、そんな社長の意図をしっかり汲み取ってこの子にコアを守る術を教えようとする敦賀さんも凄いと思う。多分説明を受けた訳ではないだろうから天性の感覚なんだろうけど、いや、だからこそ凄いんだわ。目の前で作業しているこの子も多分理解はしているんでしょうけど、この子は役柄が憑くタイプだから難しいのかもしれないわ。あ、でも、敦賀さんも同じようなタイプだったような…。
敦賀さん、この子に言いながら自分にも言い聞かせていたのかしら?

二人とも末恐ろしいわね。私も頑張ってみがかなくちゃっ!