サイド奏江
敦賀さんが背中を押すとキョーコはたたらを踏んで私の腕に飛び込んできた。私はしっかりキョーコを受け止めると「はい、お預かりします。」と敦賀さんに返した。「ありがとう。」といって見送る敦賀さんに頭を下げるだけの挨拶をして、私はキョーコを連れて会議室を出た。

敦賀さんはとても心配そうに見ていた。社さんはそんな敦賀さんと私達を見比べて小さく息を吐いて、「帰ったら迎えにいくよ。」と人懐っこい笑顔で手を振って私達を見送ってくれた。

キョーコは会議室を出て歩き始めると、私に引っ張られながらチラチラと後ろを振り返っていた。敦賀さん達が気になるんだろうけど、お互いに仕事なんだから仕方ない。
「ほら、キリキリ歩くっ!」
「…うん」
「敦賀さん、今日はそんなに沢山仕事入ってないから夕方には戻って来るわよ、もぉっ!」
「…うん」
「もぉっ!そんなウジウジのウジ虫は放置だからねっ!もぉっ!」
私はまだ後ろをきにするキョーコにそう言うと掴んでいた腕を離して一人でズカズカ歩き出す。
「えっ、あっ、モー子さぁん!放置いやぁぁぁぁっ!」
慌てて半泣きで叫びながら走ってきて私の背中にすがるキョーコにちょっと嬉しくなった。でも、そんな気持ちを気付かれないようにつっけんどんに言い放つ。
「もぉ、ひっつくんじゃないわよ、鬱陶しいわね、もぉっ!」
すがる手を振りほどかれてキョーコはその目いっぱいに涙を溜める。「そんなぁ…。」廊下にしゃがみこんで打ちひしがれるキョーコ。
「もぉっ!こんな所でそんな顔しないの、恥ずかしいじゃないっ、もぉっ!いくわよっ!」
仕方ないから戻ってキョーコの腕を掴んで立ち上がらせ、そのまま引っ張って歩き始める。
「うん、ありがとう!モー子さんだぁい好きぃっ!」
また抱きつこうとしてくるけど、そこは慣れたもの、軽く往なす。もぉっ!ホンっト手のかかる親友なんだからっ!

この子は変わってない、変わらない。帰ってくる前と何も変わらない。私の親友はちゃんと今ここにいる。この事実がとても嬉しくて、自分で思っていたよりも安心した自分に驚きはしたけど、この時改めて、この子の力になろうと自分に誓った。