二人はゲストハウスへ戻ってきた。リビングのモニターには社長から資料として与えられたDVDの映像が流されている。
二人は大きなソファの端と端に少しの距離をおいて座っている。キョーコはなんとなくぎこちない空気にどうしていいのか解らなくて戸惑っている。なんとなく感じる蓮の不機嫌っぽいオーラに腰が退けている。蓮のこんな雰囲気は初めて体感する。ちょっと…、いやかなり怖い。

不意に蓮がソファから立ち上がり、キッチンへ向かおうとする。キョーコは慌てて蓮の背中に声をかける。「敦賀さん、どうされましたか?」
連は肩越しにキョーコに振り向いて「喉が乾いたから飲み物取ってくるよ。」とまた歩きだす。
「それなら私がっ!」と慌てて立ち上がるキョーコに連は「冷蔵庫から取ってくるだけだから、座っておいで?」とキッチンに消えた。さっきまで感じた不機嫌オーラはもうなかった。「不機嫌だと思ったの、気のせいだったかな?」キョーコはソファに座り直して深く身体を預けた。

戻ってきた蓮はキョーコにミネラルウォーターのペットボトルを手渡し、自らも手にもっていたボトルの中身をゴクゴクと飲み下す。一気に半分程度飲んで、やっと一息ついたとばかりにため息をついてボトルをテーブルに置いた。
「緊張するものだね。」と言って苦笑する蓮にキョーコは「はぁ」曖昧に答える。この人は一体何に緊張しているんだろうか?

「今日はごめんね。」と唐突に謝られて余計にキョーコは混乱する。「俺、小さい男だよな。京子さんが『過去を知りたい』と言った時、正直なところ俺には無理だと思ったんだ。でも、君に『無理』とも『嫌だ』とも言えなくて、君の意見に従うような形で社長のところに行った。社長なら君をうまく引き留めてくれると、引き留めて欲しいと思ったんだ。」
「そんな…、敦賀さんはずっと私を支え「俺は君の前では格好いい奴でいたいんだ。」…へ?」
「俺は君がしたいという事を受け止めて見守って支えられる男でありたい。そう思って頑張ってるつもりなんだ。君が頼ってくれるから、君が笑ってくれるから。でも、俺は小さい男だ。さっきも社長のところで、君の前だというのにあんなミットもない姿を晒してしまったし…。」
「そんな、何もみっともない事なんてありませんでしたよ?」
「俺は…京子さんに一番近いところで君の一番の理解者でありたいと想う。でもそれ以上に君に理解してほしいみたいだ。」