蓮はキョーコの百面相を楽しんでいた。本当にクルクル表情の変わる娘だ。見ていて飽きる気がしない。蓮はモニターそっちのけでキョーコウオッチングをしている。DVDの番組が幾つかめに入った辺りからキョーコが段々小さくまるまり始めたのに気付いたが蓮はずっと観察中。だが、キョーコはますます小さくなって涙目で微かに震えだした。顔色もあまり良くない。蓮は焦りながらもキョーコを驚かせないようにゆっくり、出来るだけゆっくりキョーコの頭に手を置いた。するとキョーコの身体が大きく跳ねてまた縮こまる。なぜそうなったのか解らないが放ってはおけない。ゆっくりと頭を撫で始めた。するとキョーコの身体から少し力がぬけて、小さな息が吐き出されたのをみて、蓮はホッとする。
それでも蓮が頭を撫でる感触を楽しんでいるとキョーコが涙目のまま見上げてくる。蓮は『大丈夫だよ』の意味を込めて優しくわらいかけた。キョーコはその笑顔に見惚れていた。
「どうした、観ないの?」と蓮が訪ねると「…いえ、観ます…」と少しキョーコの声が大きくなった。
それでもなお頭を撫でてくれる蓮をキョーコはキッと挑むような目で睨み付け、その視線をモニターに移してからはモニターに映されているものに集中してしまった。
蓮はといえば、なぜ急にキョーコに睨まれてしまったのか理解できず、キョーコの頭を撫でていたてをピタッと止めてしまった。いや、動かせなくなった。蓮はそのまま少しの間ずっと固まっていたが、モニターの中から聞こえた何かの効果音にはっと我に返りソファに深く座り直す。

その後すぐにモニターに集中し、隣に座る蓮の存在をも忘れてしまったキョーコの背中に捨てられた仔犬のような哀れな視線を送りながら小さく呟く。
「だめだ、やっぱり君には敵わないよ。」

キョーコにこの言葉が届いていたら何かが変わったのかもしれない。