先ほど帰った医者に対する不快感、昨日ローリーに言われた事に対する疑問や複雑な気持ちが頭の中でグルグル回りだして俺は頭を抱えたくなった。心配そうに俺の顔を見上げてくる京子さんにやんわりと部屋へ戻る事を告げ、足早に部屋に入って扉を閉めた。出てくるのはため息ばかり。俺はまた京子さんを怖がらせてしまったんじゃないか?変に気を使わせてしまったんじゃないか…。こんな事ばかり繰り返していては本当に京子さんに愛想を尽かされてしまうんじゃないか…。今の俺にはそれが一番怖い。そんなのは絶対にいやだ!彼女には俺の傍でずっと笑っていて欲しい。『とんだ甘えただなぁ。』まさかの京子依存症なのか、俺は。とりとめなくそんな事を考えていたら部屋の扉をノックする音。「敦賀さん、お昼ごはんにしませんか?」と鈴の音のような可愛い声が耳に届く。京子さんだっ!
とたんに嬉しくて今までのグルグルと渦巻いていたブラックホールが消える。だが、そんなふうにはしゃいでいる事に気づかれたくなくて、一度大きくて息を吸い込んで、わざとゆっくり立ち上がる。はやる気持ちと裏腹になるべくゆっくり扉を開ける。「もうそんな時間なの?」顔だけ出してそういうと、京子さんは一瞬驚いたような顔をして、ふにゃぁぁっと音がしそうなくらい可愛く笑み崩れた。

彼女が用意した食事は食べやすかった。辛いのもで食指を促し、さらっと喉越のいいスープ。デザートは甘過ぎないゼリー。美味しくてペロッと食べてしまった。

「この後、バラエティ辺りから一緒に観て勉強しない?」
一息ついてからそう誘えば「はい」と自然に応じてくれる。
後片付けにキッチンに行く彼女を追って手伝いながらも会話を楽しむ。食後のコーヒーは俺が淹れてあげるよ。

彼女と横並びで資料のDVDを観始める。これが仕事絡みでなければ多分恋人同士の休日といったところだろう。彼女がどう思っているかは解らないけど…。

先ずは敦賀蓮の役作りからだ。この穏やかで大切な時間を守るためにも、俺は敦賀蓮を掴んでみせる。