〈プロの仕事〉

 

この12月の大阪新歌舞伎座公演、全28公演のうち2公演を、JA北大阪様が貸切ってくださいました。


新歌舞伎座公演に限らず、どこの劇場もこのように公演を貸切っていただくために、劇場営業部のスタッフの方々が1年ほど前から売り込みの営業に歩いてくれています。


それが仕事とはいえ、プロとはいえ、私は「大変なことだ」といつも感激しています。


化粧品や健康用品を売るのではなく、カタチのないもの、まだ作られていない芝居やショーを売り込むのです。スゴイことです。


買い手側も、そんなカタチのないものにかなり、かなり高額のお代を出してくださいます。

今回、私はそのような買い物をしてくださったJA北大阪様の公演の時にだけ、ショーのラストに1曲特別な歌を歌いました。


一生懸命、営業努力をしてくださった営業スタッフの仕事にひと華添えるため、そして、それ以上に、私という歌手を信用して貸切をしてくださった大切なお客様に、より大きな喜びを感じていただくため。

 

その貸切公演にいらっしゃる、JA北大阪のお客様方の地域では、「江州音頭」の盆踊りが大変盛んで、みなさん大好きなのだとうかがいました。


「では、その季節外れの盆踊りを新歌舞伎座でやりましょ―ッ!」


言い出したのは、営業部長!ではなく、私。


関係者一同、内心「エエ―ッ」と思われたことでしょう。しかし、前代未聞、劇場での盆踊りに向かって準備が始まりました。


子供の頃、盆踊りのやぐらに上がって江州音頭を歌っていた私ですが、同じ大阪でも地域によって踊りが違えば歌の節もまったく違います。


まずは劇場スタッフと一緒にJA北大阪様へお邪魔し、地元の婦人部の代表の方々とお会いして踊りの振りを確認したり、保存会の方から資料になる音頭の節を送ってもらったり……。


とにかく、私のショーをご覧になった1日が、特別に楽しい思い出となり残るような仕事がしたかったのです。


私は芝居のセリフを覚える傍ら、まったく初めての節の江州音頭を楽しみながら覚え、歌詞も、お客様の地域の特産物などを折り込んだ、その日だけのものを考えました。

言ってしまえば、たった2回のショーのためです。

そのために、どれだけの時間を費やしたことでしょう。 

でも、これは私がお客様に媚びているということでは決してありせん。

報酬のためのサービスでもありません。

プロとしての当たり前のホスピタリティだと思います。

私の感性および私の信条で、お客様に最大の喜びを提供する。


客席に座って観劇するのが通常の新歌舞伎座で、笑顔いっぱいに踊るお客様から私は喜びをもらいます。


1年前から売り込みをかけた営業部の方々も喜びと信頼をもらいます。

 

これが仕事。


どれだけ、自分の時間をその人のため、そのことのために使えるか、どれだけのホスピタリティを持てるか、ということなのだと思います。

 

神野美伽

MFC会報168号より