フラ(・・)ダンス!?

 

土曜日の朝9時。

デイサービスの可愛い車が母を迎えに来てくれます。

 

この一年ほど、朝起きた母の口から出てくる言葉は「おはよう」よりも何よりも「あぁ、フラつく。フラフラする。今日のフラフラはちょっと違う。あかん、ちょっと病院に行ってくる」

毎朝がこの繰り返しで、実際に目をシャバシャバさせながら「あぁ」などと小さめに声を出してフラついて見せてくれるのであります。

毎朝です、毎朝。

毎朝、今日のフラつきはちょっと違うって言うんです。

脳のMRI、心臓も血管も隅々まで検査して頂き、すべて〈合格!!〉、どこも悪くなーい!

でも、毎朝「あかん、フラつく。フラフラする」と、のたまうのであります。

「あのね、年をとると筋肉も落ちて足が弱ってくるから、少しくらいフラついても仕方がないの。病院へ行くより、少しお散歩でもしてくれば」、そんなことでも言おうものなら、さぁ大変。もう大変。

「この親不幸者~」と叫びたい気持ちをグット抑えて、その代わり、ひときわ大きくフラついて次に決まってこう吐き捨てます。

「あんたには、わからへん!」

 

笑っちゃいけませんが、こんなやり取りを30分もやっていると、お腹がすくのでしょう。黙ったまんま、タッタッタッと階段を下りて行き、必ず菓子パンとミルクコーヒー、それからバナナを一本、美味しそうに召し上がっています。

笑っちゃいけませんが、〈起きる〉→〈フラつく〉→〈食べる〉、このスタイルを崩さず守っているから、やはりついクスッと笑っちゃうのです。

私もコーヒーを淹れながら、「食欲があって良いじゃない」なんてからかうと、「朝は食べないと動かれへん!」と、妙に正しいことを言ったりして、これがまた小学校の校長先生みたいな言い方なもんで、ついにこちらは大声で笑ってしまうのです。

 

年をとる、老いるって、とても大変なことなのだと、母を見ていて痛感します。

フラつく、フラつくって決して気のせいや嘘などではないのです。

目が日に日にかすんできたり、物事を忘れてしまったり、昨日まで届いていた棚に手が届かなくなっていたり、そんなことの一つ一つを自覚しても、なかなか老いとして受け入れられず、自分で自分を持って余しているのが、毎朝の母だったのでしょう。

気持ちが滅入るのか、外にはほとんど出なくなってしまいました。

自信をなくすと、だんだんそうなってしまうのでしょうね。

 

ある時、私が「そんなにフラフラ、フラフラするって言ってるんだったら、フラフラついでにHulaDanceでも習いに行ったら?」って、つまらない冗談を言ったことがありました。案の定、母はまた「あんたには、わからへん!」と切り返しましたが、現在、母はHulaDanceでこそありませんが、妹が見つけてきてくれたデイサービスで毎週土曜日、ヨガを習い始めました!

ブラボーです。

スゴイです。

そのお蔭で、最近は朝のフラつき(・・)ダンスを見ることが出来なくなって、残念です。

神野美伽

MFC会報163号(2016年2月号)より