恋の掟は夏の空-22 | 「花咲く月夜出版社」

恋の掟は夏の空-22

日常が動き出す

電車を乗り継いで二人並んで座るたびに頭を付け合って寝ていた。
ずーっと寝てばっかりだった。

1時間ほど寝て、県境の最後の乗り換え駅にやっとたどり着いたのは12時だった。

「あ、おかーさんに電話しなきゃ。劉はでんわしないの?」
「俺? そんなことしたことないけど・・」
「じゃ、私は、してくるね」
「あ、俺、切符買ってここで待ってるね。直美の駅までは送ってくよ」
「ありがとう」

言いながら、公衆電話に向かっていった。
直美の駅は一駅おれより遠くの駅だった。
時刻表をみると、あと10分後にここを出て1時間丁度で着くようだった。

「あのさ、おかーさんが、迎えに車で来るって」
彼女の家は駅からバスで15分ぐらいの距離だった。
「よかったね。」
「でね、いっしょに家に遊びに来れば?って言ってたよ」
「俺が?だめだめ、そういうの苦手・・」
「おかーさん、会ったらしつこいよー。しらないよー」
もう笑って返事はしなかった。

「さ、もうホームに電車来てるらしいよ。始発だからここ」
手に自分の荷物を二つと俺には似合わない直美のバッグを下げて改札に向かっていく。
「いやなら、一つ手前の駅で降りちゃったほうが、安全かもよ」
って後ろで、メッチャ笑い声の直美がついてくる。
俺も間違いなくそう思っていた。

ガラガラの電車に横並びに座ると直美は腕を組んできた。
「もう、ここからだと、俺等のこと知ってる人が乗り込んでくるかもよ?」
「いいじゃん。私は恥ずかしくないもん。劉がイヤならいいけど・・」
「いや、俺は平気よ」
ものすごく平気じゃなかった。この田舎の電車の会社に親戚が二人も働いていた。間違うとこの電車の車掌が親戚のいとこの可能性もあった。
なぜか、俺が乗る電車に6歳年上のそのいとこが、車掌で乗り込んでることが多かった。
「あー。やっぱり」
床を向いてつぶやいた。
「どうしたの」
「いや、車掌いるでしょ、あそこに」
小さく指をさした
「うん。若い人よね」
「あれさ、いとこなんだよ」
「へー。挨拶しなきゃ、劉」
そう言い終わらないうちにいとこは俺を見つけて近づいて来ていた。
「よ、東京帰りか?」
「予備校行ってたから」
「そうかー今年受験か?」
そういいながら直美のほうをいとこは見ていた。
「りゅうぼうの彼女か・?」
「はぃ。彼女です。始めまして」
俺は直美をあっけにとられて見ていた。
「あ、どうも、」
いとこは、返事にびっくりしているようだった。
「じゃ、もう電車でちゃうから、またな」
そう言うといとこは車掌室に小走りで走っていく。
これで、今日はいとこの家は俺の話でもちきりだなって思った。
ま、いいか。俺の親戚もよく考えたらけっこう恋愛にはおおざっぱな人種ばっかりだったと思い出した。
「ねぇ。私印象よかったかな?」
「どうだろう」
「あ、ひどーい」
電車が動き出していた。
「印象よくないと、なー。だってさ、あの人さ、家に帰ったら劉が女のこと腕君で電車に乗ってたのよ・・って言うんだよ。で、かわいい子だったって言ってくれなきゃ、ヤダもん」
「そりゃ、俺もなんか、ヘンな子連れてたって・・言われるのはなー」
言い終わらないうちに、頭をコツンと殴られていた。
「わ、なんか、今、力入れすぎちゃった」
笑いながらごまかされているようだった。

眼をつぶって
「俺、ネムイから寝るぞ」って言うと
「私も寝ちゃおうっと」言いながら俺の左の頬にキスしてきた。

あわてて車掌室を見ると、いとこが笑っていた。

絶対駅に着くまで、寝たフリをすることにして眼をあわてて閉じた。
直美は回した腕に力を入れて、笑いをこらえているようだった。

そのまま二人で寝入っていた

いとこの車掌に「降りないのか」って言われるまで。