そして、春休みも残り少なくなった頃。
「ね!お願い、かずくん」
ゆうくんが顔の前で手を合わせて、拝み倒してくる。いやいや、顔、近いって。
彼の驚くべきお願いってのが、
今ひとつやる気が出ない自分のモチベーションをあげるためにデートしてくれ。
ってさあ、なんなの、それ。
まーくんが聞いたら、ぶっ飛ばされそうなんですけど。
そもそもデートって言い方よ。それだけでヤバいオーラ放ちそうじゃない?
「一緒に映画観に行ってくれるだけでいいんだ。俺、やる気満々になれる、絶対なるからさ!」
…時々、ゆうくんがわからなくなる。
兄であるまーくんへの対抗心なのか、なんなのか、妙な事言い出すんだよな。
さすがの俺もちょっと引いてしまう。
「…そんなんでモチベーション上がるんだ?」
「そんなんって言うけど、俺、ずっと忘れられない事があるんだよ…」
ゆうくんが小学生の頃、三人で観に行きたかった映画を、中学生だった俺とまーくんが二人で行ってしまったって。
えぇ、そんな事あったっけ?
「兄ちゃんたちは覚えてないかもしれないけど、俺はすごく楽しみにしてた映画だったんだ」
すごい人気のホラー映画で、でも、父ちゃんは忙しくて、母ちゃんはホラーは苦手で、友達もみんな怖いからヤダって言うし。
こっそり観に行こうかとも思ったけど、一人でホラー映画観るの、やっぱ怖くて。
「兄ちゃんとかずくんが楽しそうに感想とか話してるの、羨ましかった…」
そう言って俯くゆうくんの顔に、胸を突かれた。
全然覚えてない、てか、気づいてなかったという罪悪感もあって。
俺はそのお願いを承諾してしまった。
「兄ちゃんには内緒!絶対だよ!」
さらにそう約束させられて、「うん」と頷いてしまったのだった。