それから家の近くまで帰ってきた。
小さい頃から行き慣れた神社に、あらためてお参りしようと二人で足を向けた。

大きな神社ではないけれど、真夜中にもかかわらず、お参りする人が結構いて、夜店もいくつか並んでいた。
夏祭りの屋台によく来てたなぁと懐かしくなる。食べきれないわたあめを、よくみんなで分けたっけ。あれ、口元がベタベタになるんだよなぁ。

「ほら、順番来たよ!」

繋いでいた手をまーくんに引っぱられて、俺は思い出から舞い戻る。
お賽銭を入れて、目の前の紐を掴み、さっきできなかった分まで派手に鈴を鳴らした。
二礼二拍手一礼。

お願い事、なんにしよう…。

手をあわせながら考える。
隣のまーくんをチラ見する。まーくんは目を閉じて、しっかりお願い事をしてるみたいだ。
そうだな…。

(まーくんが病気にならず、元気に過ごせますように)

最初に出てきたお願いはそれだった。
自然気胸は再発しがちな病気だし、すぐ無理しちゃうからさ。ホント、シャレにならないもん。
それからみんなの元気と平和もおねがいしておいた。

そして次の人に場所を譲りながら、ふと思う。

昔はお願い事といえば、自分の欲しいものだとか野球が上手くなりますようにとか、入学試験合格!とかだった。
だから小さい頃、不思議だったんだ。

「お母さん、なにお願い事したの?」
「そうねぇ、家族がみんな元気に過ごせますようにって、よぉくお願いしておいたわ」

小学生の俺は、母さんの言葉を聞いて、なんで自分のことをお願いしないんだろうと思ったものだ。確かその時の俺は、ホームランがいっぱい打てますように!とかだったハズ。なんならさらに新しいゲームが欲しい!とかも頼んでたかも。

でも今ならわかる気がする。
自分より大事な人がいるってこと。
その大事な人の幸せを願わずにはいられないってこと。
そしてそれが、俺の幸せになるってこと…。

「すっかり冷えちゃったし、なんか温かいもの、食う?やっぱ、タコ焼きかな?」

まーくんが白い息を吐きはき、そう言った。
俺はまーくんの腕にぶら下がって、「タコ焼きタコ焼き!」と答える。

「母ちゃん達なら甘酒とかなんだろうけど、ここはやっぱタコ焼きだなっ」

二人で縁石に座って、アツアツのタコ焼きを食べた。ちょっぴり舌をヤケドしたけど、おなかの中がぽおっと温かくなる。
まーくんが熱いお茶のペットボトルの蓋を開けてくれた。二人で代わる代わる飲む。

「こーゆーのも、いいなあ」
「うん」
「けど、ちょっと寒すぎ。次からは昼間でいいかなー。」
「そだね。でも一旦、一旦ね、経験しとかないとね、こーゆーのは」

俺がそう答えると、まーくんがハハッと笑ってうんうんと頷いた。

境内は柔らかい静けさに包まれていた。