人生初の真夜中の初詣。

どうせならと電車に乗って、少し離れた有名な神社に向かった。そのための臨時電車が夜中も走っているらしいし、出来たら年明け一番にお参りしようと意気込んでいた俺たち。
あのテレビの「ゆく年くる年」で、厳かな年末の風景が、年明けした瞬間に華やかな雰囲気に激変するのが不思議でおもしろくて。その気分を味わってみようってなったんだ。

だが、しかし。
行って驚いた。こんな雪が降るような寒さにもかかわらず人、人、とにかく人!
参道にはそれはもうたくさんの人が並んでおり、ぎゅうぎゅうぎゅう詰めで、一度並んでしまうともう抜け出せない状態になってしまった。
人の波はじりじりとしか進まず、かといって戻ることも出来ず。俺とまーくんは、その流れに逆らえないちっぽけな小舟のように、ただもう揺られながら運ばれて行った。

そうしている間に年は開けていた。
マジかよ。

「かず、かず!大丈夫?」
「まーくんっ」
「俺から離れんなよ!」
「うん、すすすごいね…」

俺たちは腕を絡ませ合って、はぐれないようにするので精一杯。まるでおしくらまんじゅうだ。
「どこから拝んでもご利益は一緒です…」
なんてアナウンスが聞こえてきて、思わず二人で笑ってしまった。

もう少しで社殿の前というタイミングで、俺らの前後から飛び交うお賽銭。

「うわ、怖!これお賽銭箱まで届いてんのかな?」
「パーカー着てくりゃよかったねっ。したらいくらか入ってるよ」

そんな不謹慎なこと言い合って、顔を寄せて笑い合う。不思議な高揚感。

ようやくたどり着いたお賽銭箱になんとかお金を入れお参りした。でも、すぐに横に流されてしまい、お願い事もろくにできない有様で、もう笑うしかない。

「いや、なんだこれ」
「ちょっと無謀だったかあ」

苦笑いで外に押し出された事により、渋滞はわずかばかり解消され、ホッと一息ついた。
そんな人混みの中、突然まーくんにキスされる。
全く無防備だった俺はびっくりして、何も言えずまーくんをボーゼンと見つめ返した。

「あけおめ!今年もよろしくっ」
「……ちょっ、こここんなとこで何すんだよ」
「誰も見てないって」

確かに周りの賑わう人々は、みんな自分たちのことしか目にはいらないようだった。
それでも俺の顔が赤くなるのも、うっすら汗かいてんのも、この人混みのせい。そうだ、そうに決まっている。

「見られたって構わないしね」

まーくんがいたずらっ子みたいな笑顔で言う。
その顔を見たらたまらなくなって、俺からまーくんに抱きついてその唇にキスをしていた。

不思議だな。
こんなに大勢の人がいるのに。
なんだかこの世界に二人きりみたいに感じた。