まーくんはワナワナ震えながら、背中にいる俺を庇うように腕を回して叫んだ。
「知り合いとやらもアンタも、かずのことヤラシイ目で見んな!!」
「はあ!?ヤラシイってなんだ」
「ヤラシイはヤラシイだよ、このスケベ!」
「す、すけべだあ!?」
今にも取っ組み合いでも始まりそうな二人の勢いに、さすがに心配になって、俺はまーくんの腕に縋りつき止めようとした。
その頃には、この騒ぎに気がついたのか、下の階の住人がざわつき始めた気配が足元から伝わってきた。
克実ちゃんが慌てて俺たちの腕を掴み、ぐいっと強く引っ張った。不意をつかれた俺たちは抗うひまもなく、三人で克実ちゃんの部屋に文字通り転がり込んだのだった。
「待て待て、落ち着け。なんで俺が坊主をそんな目で見なきゃならないんだ」
「『いい子』って言ってただろ」
「そんな意味じゃねえよ」
俺はいがみ合う二人の間に入り込んだ。
やっぱり克実ちゃんの目は濁ってるようには見えなくて。俺の人を見る目が濁ってるのかもしれないけど。
「じゃあ、どんな意味なの?」
ずっと無言だった俺の突然の発言に、二人はギョッとしたらしく静かになった。変わらず睨み合ってたけどね。
そこから克実ちゃんの話を聞くことができた。
話している間、俺はずっとまーくんの腕の中に収まっていた。
「俺の知り合いってのが、今年の春に坊主たちの大学で公開講座をしたらしくてな。『映画』をテーマにしたんだったか…。おまえさん、その講座に参加してただろ?」
そう言って、克実ちゃんは俺を指さした。
え?
そういや、そうだった、かも。
確か人気があり過ぎて抽選になってたんだ。
俺が当たって、まーくんは外れちゃったから残念がってたんだっけ。
でも俺、まーくんに「一緒に暮らそ!」って言われた時期だったから、その事で頭がいっぱいであんまし覚えてないんだよな。
有名な映画監督さんだったと思う。
「そいつ、俺の昔からの友達で、映画の監督とかしてるんだけどよ。その講座で坊…にのちゃんを見かけたって言うんだよ」
そうだ、思い出した。
なんか急に質問を振られてびっくりしたんだ。
ええぇ、だからって…どういうこと?
俺はまーくんの腕の中で身じろいだ。