「ゆっきー可愛いな〜。ねえ、博士?俺のアバターも作りたい」
「……何を言って」
「だめ?」

にのが博士を上目遣いで見つめる。きゅるんと音がしそうだ。
他の白雪とは違う茶色の瞳は、不思議なナニカを湛えている。
見た目の改造を施したのは、にのの仲間の智という男。博士の昔の同僚でもあった。
あの男は何をしたんだと博士は、そのキレイな瞳に見入ってしまった。

「…好きにしろ」

あああ!俺は何をしているのか。
数秒前まで「必要ない」とか「仕事の邪魔だ」とか「無駄」とか考えていたのに、口から出たのは許可の言葉。博士は自分自身に腹を立て、心の中で地団駄を踏んだ。

一方、にのは嬉しそうににっこり笑って、早速3Dアバター制作のアプリを立ち上げ、「ゆき」とああだこうだと話が弾んでいる。
………楽しそうだ。

博士はため息をつき、ガックリと椅子に身を落とす。お茶を一口啜り、うぐいす餅に手を伸ばした。いつも決まったものしか食べない博士だが、きな粉の風味と餅の柔らかさに満足する。

「これも悪くないな」


「ゆき」とキャッキャしているにのをながめていた博士は、直接質問をぶつけてみた。
なぜあんなゴミな機能をつけたのか。

「あぁ、あの穴のこと?」

……穴。
間違いないが、もう少し言い様ってものが無いものか。あけすけなもの言いに、さすがの博士も呆れてしまう。

「だって、まーくんが喜ぶかな〜と思って」

出た。
事あるごとに出てくるワード「まーくん」。
この「まーくん」こそが最大の問題点なのである。

「そりゃ、そいつにはイイかもしれないが」

博士の声のトーンもダダ下がる。
「まーくん」とは、にのの仲間の一人で「雅紀」という男だ。料理人であり、にのの恋人でもある。

手術後など、時間の許すかぎりにのにびっちり寄り添い、それはもう至れり尽くせり世話を焼いていた。正直リハビリの妨げですらあったくらいだ。
そして退院後も、働かせ過ぎだの帰りが遅いだの、事ある毎にクレームをつけてくる。
過保護と甘やかしの権化なのである。

本来24時間稼働可能なアンドロイド。秘書兼メイドでもある「ゆき」は常時働き重宝していた。
もちろん今は脳が生身なので、そこはキチンと人の就業時間を守っているし、慣れるまでとはいえ時短にしているし、なんなら疲れやすい脳のためお昼寝タイムまで確保しており、破格の高待遇だ。
「まーくん」とやらに文句を言われる筋合いはないのである。

「おまえ自身は感じる能力がないというのに。虚しくならないのか」
「えー、やだあ、感じるだなんてぇ」

にのが恥じらうようなフリで博士をつついてくる。「恥ずかしいのはこっちだ」とその手を振り払おうとにのの顔を見た博士はさらに驚く。
頬を赤らめている!?また改造されたのか!

「ちょっと待て、お前その顔…」

もはやアンドロイドなのか人なのか、わからなくなってくる。これは必要なのか?人であるという意味で必要という事なのか?
しかしだからと言って性機能はいくらなんでも…。相手にしか利がないのでは?
混乱する博士に「ゆき」が耳を疑う発言を投げかけた。

「ニノさまも気持ちいいそうですよ、博士」