こうして、翔の診療所にまた日常が戻ってきた。
雅紀に占拠されていたゲストルームも、今はコワモテのお兄さんが二人ほど、包帯を巻かれて横になっている。
禁止されているタバコを堂々と吸うのを注意した医療用ロボットが、二人にどつかれそうになり、キッチンに逃げてきた。
「ニノニノ、タスケテー」
「タング!どうしたの」
本日お休みのにのが、慌てるタングを抱きとめた。そして、ゲストルームに向かおうとするので、雅紀は一応声をかける。
「気をつけろよ」
「大丈夫だって!それよか、全部握っちゃわないでよ」
雅紀は包みかけの手元の餃子に目を落とし、「はいはい」と答える。なぜかこのふたりは、餃子を包むことを握ると言うのだ。
「『はい』は一回!」
律儀に注意してにのはタングについて行ってしまった。その可愛い後ろ姿に雅紀は目を細めた。
今夜の夕食はいつもの五人で久しぶりの餃子パーティの予定なので、せっせと作っているところだった。
すぐにドタドタ大きな音がしたかと思うと、にのが戻ってきた。ぷんと頬をふくらませている。
「大丈夫だった?」
「ぶっ飛ばしといた」
あぁ、あいつら傷が開かないといいけど。だから気をつけろって言ったんだけどな。
「だって、俺のおしりさわったんだもん」
「……!なんだとぉ」
そっちは大丈夫じゃなかったか。
怪我人じゃなかったらもう一発、グーパンチ食らわすとこだぞ。
でも大丈夫。
もう生身の身体ではないにのは、その可憐な姿からは想像もつかない力で不届き者をやっつけられるのだから。
そして、ある程度「ゆき」が手加減させているはずだ。……たぶん。
夕方、工房から智と潤が連れ立ってやって来た。腹ぺこのふたりは、早くも餃子を焼いて欲しがったが、にのに首を振られる。
「なぁんでだよ。翔ちゃんまだ患者診てんのか?」
「さっき片付けてたよ。そうじゃなくて!」
なんと!今夜はあの本郷博士も呼んでいるという。それを聞いて智がソファにひっくり返った。嫌っているわけではないが、どうも苦手らしい。
「マジかよ…」
「だってゆっきーが呼ぼうって言うからぁ」
「そんで博士、来るって?」
潤が面白がるような表情で聞いた。
「来るってゆっきーが言ってた」
「ゆっきー最強だなっ」
ふふっと潤が笑った。