ところでにのは「ゆき」の存在を知っているのだろうか。

なにしろ、にのが眠っている時にしか表に出てくるのを見たことがなかった。もしかして知らないのではと気になった雅紀は、後日にのに確かめてみた。

「知ってるよ。俺『ゆっきー』って呼んでる。時々話すよ、頭の中でだけど」
「ゆゆゆゆっきー…?」

まさかの返事に雅紀はたじろいだ。「なんで言ってくんないの」と、つい責めるような口調になってしまった。
しかしよくよく聞くと、リハビリ後に本郷博士が解放すると言っていた「アンドロイドのサポート機能」が、「ゆき」そのものだったようだ。

「ちょっと前にゆっきーが話しかけてきて、俺も知ったの。そん時はそうだったんだーって驚いたけど、結構すぐ慣れちゃってさ」

どうやらアンドロイドの身体の中にコアがあって、そこに「ゆき」がいるらしい。
にの的には別段隠しているつもりではなかったようだが、言ってなかった事に対して、

「ごめんね」

と、茶色の瞳をうるうるさせて、雅紀をデレさせた。もちろん、うるうるに見えるのは雅紀に自動的に付けられるフィルターのせいで、実際には「涙」の機能はない。
ふと、にのが真顔になってつぶやいた。

「ゆっきー、まーくんと話したりしてんだ…」
「ほんの二回くらいだよ」
「俺…知らなかったな」
「そうなの?」
「ゆっきー、博士ともあんまし喋んないのにさあ。そんなことある?」
「…えーと」
「えぇ?ゆっきー、まーくんのことめちゃくちゃ気に入ってんじゃん」
「にーのーちゃーん?」

なにやら雲行きが怪しくなってきた。
ぶちぶち言うにのを見て、ゆきに「まーくん」と呼ばれた事は黙っていようと思う雅紀だった。

ちなみに、にのの脳の具合を見守っているゆきは、本郷博士と常時データ交換を行っており、実はかなりのやり取りをしている。
思わぬ所で名前が出た博士は、今頃くしゃみをしていることだろう。