表に出てきた「ゆき」は、横たわったまま顔だけ雅紀に向けている。ほぼ無表情だが、こころなしか元気がないようにも見えた。
「きょ、今日はちょっと疲れさせちゃったけど!はは初めての夜?なんだからさ、大目に見てくれてもよくない?」
なんで言い訳しなきゃならないのかわからないが、思わずそう言ってしまってから、雅紀は顔を赤くした。
「別にさあ、俺、にののこと大事にしてるよ?ゆきちゃん、保護者なの?そんな毎回チェックとかさぁ…」
「わたし、見くびってました」
「さすがに…え?」
ゆきは天井を見上げていた。
「『人』ってスゴいんですね」
「スゴい…かな」
「スゴいです。完全に見くびってました」
きょとんとする雅紀の方を見ずに、ゆきは語り出す。
「わたしとニノさまは身体を共有していますが、ニノさまとの繋がりを感じた事はあまりありません。ニノさまとマサキさまは身体は別々なのにちゃんと分かりあってる、と思います」
ゆきは雅紀に視線を移した。
「心、で繋がっているんですかね?」
そうかもしれない。
そんなふうに意識したことはないけれど。
でも想い合うってそういう事なのかも。
「羨ましい…」
ぽつりとゆきが言った。
「わたしにも『心』があれば理解できるのでしょうか」と、どこか寂しそうな様子だ。
「ゆきちゃんにだって心はあるでしょ」
「ありますかね?入力された膨大なデータを元に『それらしく』対応しているだけですけど」
ゆきは機械に…アンドロイドに感情は必要ないと言う。「だって、例えば冷蔵庫に冷やしたくないって拗ねられたら困るでしょ?」と小さく笑った。
そうなのかな。
ゆきちゃんには「心」がない?
雅紀は不思議に思う。
にのになりきってる時の可愛いアンドロイドの姿を思い出して考え込んでしまう。
笑ったり、拗ねたり。優しく慰めてくれる甘い声。あれはゆきちゃんじゃなくて、全部にのだったのだろうか。
「まーくん」
呼ばれて、ハッと顔を上げる。
にのが起きた?
「って、呼びたくなります」
そう言って顔を赤くしたのは、アンドロイドのゆきなのだった。