「……-にの?」
先程とは全く違う雰囲気に雅紀は戸惑いながら、にのに声をかけるが。
「あなたの『にの』ではありません。いいですか、充電にはとにかく気をつけてください。脳の安全保持のため、必須です。予備のバッテリーはありますが、それにも注意を」
バッサリ切り捨てられてしまった。
にのの顔、にのの声なのに、これは…。
「にの!?」
「だから、あなたの『にの』ではな」
「あっ、違う!『アンドロイドのにの』ちゃん…なの?」
にのの言葉に被せるように叫んで、飛び起きた。さらに「静かに!」と小声で叱られて、雅紀は慌てて手で自分の口を押さえる。
「いい生きてたんだ…」
「生きているが正しい表現かわかりませんが。わたしは機械ですので」
「よかった…」と無意識に言葉にしていた。
にののためとはいえ、機械であってもその存在を消させてしまったと、うしろめたい気持ちを持たずにはいられなかった雅紀である。
「わたしはニノさまの器となり、彼の脳の状態を見守るようご主人様から仰せつかっております」
「本郷博士から?」
「はい」
博士が言っていた「サポート」とは、実の所この事だったのか。博士にとっての「ゆき」ちゃん(博士がつけたアンドロイドの名前)は変わらず存在してるんだ。だから仕事復帰を急いでいたのか。
「にのは知ってんの?」
「特にお知らせしておりません。表には出ないように気をつけてますので。まぁ、聡い方ですからお気づきかもしれませんが」
「そっか…」
考え込んでいた雅紀は、ふととんでもない事に思い至った。もしかして。
「え、ちょっと待って。じゃあ、じゃあさっきにのとしてたの…」
「はい?」
「みみみ見てたってこと?」
「……………」
アンドロイドの目がすぅと細くなる。
それを見た雅紀は心の中でギャーーと叫んだ。
嘘だろ、見られた?まさか、そんな。
アワアワする雅紀に、アンドロイドはやや冷たい声で判決を言い渡した。
「あまり無理させないでいただきたいです」
おおおおーまいがーー!!!
雅紀は頭を抱え、全身が粟立つような恥ずかしさにベッドから転げ落ちたのだった。