あんなに迷っていたにもかかわらず。
雅紀はあっという間に我を忘れて流されてしまった。
にのが上手なのか、自分の手とは違うあまりの気持ち良さに溺れてしまう。少しコワイ気すらしたが、抗えなかった。

好きな人にされると、こんなに気持ちいいものなんだ…。

にのの手を汚してしまって、我に返った。

「ごごごめんっ、ごめんねっ」

大慌てでティッシュを引っ張りだそうとして、自分がぱんつを履いてないことに気がついた。

えぇっ、いつの間に!?
いや、そんな事よりにのの手を拭かないと…

混乱しながらも、雅紀はにのに向き合う。
にのは自分の濡れた手を見つめていた。
雅紀は焦ってその手を取り、キレイにしようと躍起になる。にのはそんな雅紀をやっぱり見つめていた。そして小首をかしげて囁いた。

「気持ちかった?」

舌足らずな、でも甘く可愛い言い方。雅紀はすぐに返事ができなかった。

愛おしさと罪悪感。

「うん、うん」と頷くはしから、涙がぶわっと吹き出て顔がぐちゃぐちゃになる。
そんな雅紀をぽぅっと見ていたにのが、さらに囁いた。

「俺も気持ちかった…」

うっとりしているみたいな様子に、雅紀は「え」と目をみはる。

「そうなの?」
「…うん。どんな感覚か、ちゃんと覚えてるもん。頭の中でイッちゃった…みたいな」

そう言ってにのは、ふわふわ揺れて目を閉じた。倒れそうになるその身体を抱きとめると、もうにのは寝息をたてていた。

「にの…」

アンドロイドのにのは寝なかった。寝る必要が無かったからだ。電源もしくはバッテリーがあればいつでも動く事ができた。
夜中、椅子型の充電器に座っている時はスリープモードだったが、それは皆が寝静まっているからであって、別に寝ていた訳ではない。

しかし、本物の脳を内蔵してからは寝るようになった。むしろよく寝ている感じだ。
脳への負担が大きく、疲労が溜まるのだろう。

雅紀はそっとにのを寝かせると、大急ぎでぱんつを探し出し履いた。ぱんつはベッドの下に落ちていた。

いろいろあった一日。
はりきって、張りつめていた神経がようやく緩んできたようだ。一気に身体が重くなる。
頭はまだ少し興奮冷めやらぬ、という感じではあったが、にののすぐそばに横たわった。

長い一日だったな…。

眠るにのの顔を眺めるうちに、少し瞼が重くなってきた。にのの小さな手を握って目を閉じる。
眠りに落ちようとしたその時。

「充電コードをつけてください」

突然のにのの声に目を開ける。
目の前のにのは、ぱっちり目を開け、雅紀を無表情に見つめていた。