にのを抱えて寝室まで来た。
一緒にベッドに倒れ込んではみたものの、そこで雅紀は考え込む。

どうしたものか…。

にのが帰ってきたら、アレもコレもしたい、キスしてもいいよな…などとソワソワしていた雅紀だが、いざこういう形で向き合うと迷ってしまう。

「まーくん…」

雅紀の腕の中で、キレイな茶色の瞳でじっと見つめてくるにの。大きめのだるだるシャツからちろりと覗く指先。

かつて、こんな風に二人でベッドに転がったことは何度もあった。その度に雅紀は、自分の気持ちを必死に抑え込んだものだ。
勝手に盛り上がりそうになる身体を持て余し、にのが眠るまで、どこかで聞きかじったお経もどきを心の中で唱えてみたり。我ながら涙ぐましい努力の毎日だった。

そっとにのの頬に触れる。

「おかえり、にの」

もう会えないかもと思う日もあった。
絶対諦めないと決めてはいても、挫けそうになる自分に腹を立てたりもした。
それが今。ここにこうしてにのがいる。
俺の腕の中に。

「…ただいま」

にのは目を閉じ、頬にある雅紀の手に猫のように頬ずりをした。
それがあまりに可愛くて、雅紀はもう何も考えずににのにキスをしていた。
アンドロイドではあっても、にのの舌は柔らかく湿って、甘かった。


かなり長いことそうしていた。
しかし、この先には進めない。
世の中には、アンドロイドとそういう事を楽しむ人々もいるという。もちろんそれに対応できる機能を搭載しているアンドロイドでだ。にのの身体は対応していない。

リーダーが言ってたのはコレだ…。

けれど雅紀は思うのだ。

『痛み』も『怖さ』も感じないアンドロイドの身体で、『気持ちいい』を感じられるのだろうか。
俺だけ盛り上がって、気持ちよくなるだけで、にのにとっては、ただの物理的な行為に過ぎないのではないか?

ぐるぐる考えていると、にのの小さな手が雅紀自身に触れてきだから、変な声が出てしまった。

「うへぇ!」
「やったげる」
「……っえ、えっ」

思わず見たにのの目は、やっぱりキレイで、さっきと変わらず雅紀をじっと見つめていた。