にのの言葉が辛くて、切なくて、勢いでキスしてしまったが、雅紀は必死だ。
「そんな、そんな言い方、すんなよっ」
目を見開き、何か言いたげなにのの肩を雅紀は強く掴む。
「にのはにのだよ!」
どんだけ想い続けてきたと思ってんだ。
どんだけ見つめ続けてきたか。
「義手や義足つけたって変わんないだろ?それと一緒!それが全身になっただけ。にのはにのだよ、変わんないよ」
にのがうつむいて、何か言った。耳が赤い。
「ちゃんとわかってんの?」
「……とけばよかった」
「え?なに?」
「生身のうちにキスしとけばよかった!」
予想外の言葉が帰ってきて、雅紀はちょっとの間ポカンとしてしまった。
「……へ?」
「もっと、もっと早く素直になっとけばよかった、好きだって言っておけばよかった、まーくんだってもっと早く言ってくれればよかったのにっ。そうだよ、まーくんのバカ!」
にのは子どもみたいに喚き、小さなこぶしでポカポカ雅紀を叩いた。
本当は泣きたかったのかもしれない。けれど、アンドロイドの身体では涙は出ないのだった。
そのせいか、にのが再び叫んだ。
「まーくんのバカあ!」
雅紀は、半ば八つ当たりして暴れるにのをガッチリ抱きしめた。
雅紀には流れていないにのの涙が見える気がした。いや、見えているのだ。泣き虫だったにのの可愛い泣き顔が胸に刻まれているのだから。にのは今大泣きしている。
「ごめん、ごめんね」
「だーかーらー、二回繰り返さないのぉ!」
しっかりツッコミも忘れない、可愛いにの。
雅紀は苦笑いしつつ、ゴネているにのを抱き上げた。
「大丈夫だよ、にの」
雅紀は優しく背中を撫でた。
「遅いことなんてないって。いつだって始められるよ。そう、いまから始めてみればいいじゃない!」
まるで歌うように雅紀が言った。
二人でよく聴いた歌の歌詞だった。何故だか胸が熱くなる歌。二人が大好きな歌だ。
にのはギュッと雅紀の首にしがみついた。