カチリとスイッチを切る音がして、ぶおぶおいっていたドライヤーが静かになる。
雅紀の髪を乾かしたにのからドライヤーを受け取って、今度は雅紀が久しぶりににのの髪の毛を乾かしてあげた。
以前のにのはとても柔らかい髪質で、面倒くさがりな持ち主のいい加減な扱いにも耐え、いつも天使の輪が輝く美しい髪をしていた。
アンドロイドの身体になった今でも、程よく柔らかく、人工毛にしてはよく出来ている髪の毛だ。
「ちゃんと、きゅーてぃくるも再現されてるんだって!」
されるがままのにのが、雅紀の手の優しい感触に気持ちよさそうに言った。そんな様子を見て、雅紀はふと考える。
アンドロイドのにのは、『痛み』も『怖さ』も感じないと言っていた。つまり、その身体をもらった今のにのも、同じように感じないという事なのだろうか。もしそうならば、『気持ちいい』って事も感じない?
「どこまで『人』に近づくんだろうね?そんなに必要かなあ?」
「え…、いいんじゃないの、別に」
技術が進んで近づけば近づくほど、にのが、にのの身体が『人』に近くなるんだから。買い換えられたらの話だが。
「したら、アンドロイドに恋する人も出てきちゃったりして」
いたずらっ子みたいな顔でにのが言った言葉に、思わず雅紀は反応した。
「それって、本郷博士のこと!?」
「はあ?」
「だって、博士、『白雪』の事すごいこだわるしさ。なんか、ちょっとさ…」
ヤキモチ焼いてるなんて思われたくはない。
雅紀はモゴモゴ言葉を濁した。
それに気がついているのか、いないのか、にのは声を上げて笑い出した。
「そりゃ、お高い『白雪』だもん。大事にもするよぉ。まぁ、見た目は俺になっちゃったけど、ほら、俺もそこそこ可愛いし!」
だから、『白雪』の代わりに博士のお手伝いをしようと思ってるとにのに言われて、雅紀は動揺した。
「マジで?」
「うん。やっぱ申し訳ないしね。…え?なんでそんな顔すんの」
「……だって、あいつ」
無意識に博士をあいつ呼ばわりする雅紀の手から、にのがドライヤーを取りあげた。
部屋が静かになる。
「ヤダな、さっきのは冗談だって。なに心配してんの。そんな訳ないじゃん。俺ほとんど機械だよ?」
にのはうつむいて、おでこをを雅紀の胸にくっつけた。
「ずっと一緒に居たいなんて…そんな物好き、まーくんくらいじゃな…」
にのが言い終わる前に、雅紀はその唇にキスしていた。