お風呂の準備は整った。
浴室のすりガラスのドアの前で、雅紀はタオルを握りしめ固まっていた。
足の裏が床に張りつき、膝だけが小さくカクカク上下する。時折、90度に曲がっている両腕がタオルごと右を向いたり左を向いたり。
どうする?
おふろ、一緒にはいる?…って聞く?
これまでなら、こんな事で悩んだりしなかった。
よく一緒に入っていたし、自分が少しばかり目のやり場に困っていただけで、二人の間ではごく普通の事だった。
もっとも、この年齢の男二人が、この家庭用風呂桶に一緒に入るのが、一般的かどうかはまた別の問題ではあるが。
それもこれも智のせいだと、雅紀は心の中で文句をつけた。
あんなこと、リーダーが言うから…めっちゃ意識しちゃうだろっ!
どうすんだよ、俺。どう、どうすれば…
「なにしてんの?」
急に声をかけられて、雅紀は飛び上がった。おかげで張りついていた足の裏がはがれ、余計に怪しげな動きになってしまった。
「いやっ、べべ別に…」
「おふろ、沸いたんだ?」
「あ、うん」
「じゃあ、早く入んなよ。上がったら頭、乾かしてあげるからさ」
「……え」
「…え?」
一瞬間があき、二人は見つめ合う。
見るからに雨に降られた大型犬のような雅紀のしょぼくれた様子に、にのは目をぱちくりさせた。
「……んじゃ、背中洗ったげる」
にっこり笑ったにのは、躊躇なく雅紀から服を引っペがし、自分もするするとメイド服を脱いだ。そして、オタオタする雅紀を浴室に押し込み、さらに、湯船にまで押し込んだ。
「てかさぁ、俺、あんまおふろ必要ないんだけどね」
シャワーの湯温を確かめながらそう言うにの。そのアンドロイドの身体は、相変わらずつるりと白く美しい。
一応戸外での活動を想定し完全防水だが、汗もかかないうえに、汚れにくいコーティングがされており、それほどメンテナンスを必要としないのである。
お湯につかる雅紀は、湯気越しにチラチラとにのを見た。
元々色白のにの。柔らかいもち肌の彼は、フォルムも丸っこくてどこか女の子っぽいところがあった。意外にある肩幅がわずかに男らしさを感じさせていたものだ。
それが今や、でっぱりは全てなくなり、男でも女でもない、つるりんボディになったのである。
もはや赤ん坊より無垢な存在。なにしろ赤ん坊にすらでっぱりは存在するのだから。
唯一のでっぱりはおしりくらいだ。
「……なにジロジロ見てんの」
「え、や、おしりはあるんだなぁって」
「まーくんのえっち!」
すかさずシャワーをぶっかけられて、「ちが、違うって」と慌てて下心を否定する。
下心はあるけれど、今のは本当に素朴な感想が口からこぼれてしまっただけだったので、雅紀は必死になった。
「…だって、顔赤いじゃん」
シャワーを向けたまま、口を尖らせるにの。
違うんです!お湯のせいなんです!
まだ入ったばかりなのに、もう湯あたりしそうな雅紀であった。