「にのは!?にのはどうしたいの?」
雅紀が大きな声でにのに問いかける。
にのはびっくりまなこで雅紀を見上げていた。
「彼には承認を得てる」
「あんたに聞いてない!黙ってろっ」
代わりに答えた本郷博士を、雅紀が指差しでつっけんどんに切り捨てた。
「本当に?ほんとうなの??」
「…え、……うん」
「それでいいの?死んじゃうかもしれないんだよ?それでもいいの??」
「……………」
雅紀の剣幕に、さすがに翔が「待てまて、雅紀」と声をかけた。「死んじゃう…とか言うなって」となだめにかかる。
バッサリ切られた博士は、小さく舌打ちしながらも言い返しはしなかった。
「ちゃんと考えて、にの!」
「考えてるよっ。死のうが生きようが、今とそう変わらないし、どっちにしたって、むしろラクになるって意味では同じだよ」
「………………」
そうなのだろうか?雅紀は考え込む。
「さっき泣いてただろ、ホントは嫌なんじゃないの。怖いでしょ」
「そりゃ、……怖いよ」
「無理強いされてんじゃないの?三浦先生に頼まれて断れないとか?だいたいあの博士、むちゃくちゃヤバいんだろ?」
雅紀の指摘に、三浦医師は「いやいや」と首を振り、本郷博士は「ふんっ」とそっぽを向いた。
「…本郷センセはいい人だよ」
にのの言葉に、雅紀はちょっとムッとした。
まさか、あの感じの悪い博士を庇うとは思ってもみなかった。
「ホントに?なんでわかんのさ」
「だって…」
にのはチラリと博士のそばにいるアンドロイドに視線を送った。
「あの子がそう思ってるから」
はあ?そんなの、信じられるのか?
だって博士はあのアンドロイドのご主人様なんだから、そう思うようにプログラムされてんだろ。
雅紀は不安になった。
にのはあのアンドロイドと感情が同期しちゃってるんだろうか。
「俺、おれ、にのがこのまま帰ってきたら何でもするよ。う〇こだって全然平気!だって全部『にの』なんだからさ!一生面倒みる!」
握りこぶしで力説する雅紀に、にのが目を見開いた。茶色の瞳に涙の厚い膜がかかる。
「…ふふ。なにそれ、プロポーズ?」
「そう!そうだよ!受けてくれんだろ?」
勢いに任せて雅紀はそう答えていた。
そうだ、ずっと伝えたかった本当の気持ち。一生隠し通すつもりだった大切な想い。でももう黙ってる場合じゃない。
なぜか根拠は全くなかったが、不思議な自信に背中を押され、強気なセリフが口から出た。
にのがまたぽろりと涙を零した。
「うれしいけど、俺、移植受けてみたいんだ」
「え…」
雅紀はまた、その場にヘタリ込みそうになった。
「…おれ、振られんの?」
雅紀の情けない声に、にのは泣きながら「ふふ」と小さく笑って、耳を赤くする。
「アンドロイドになっても、一生そばに居てもいい?」