皆からの視線を浴びても、アンドロイドは何も答えない。ふいっと横を向いてしまった。

「あぁ、いやいや。そんな四六時中操作は出来ないさ。にのくんには倦怠感という後遺症もあるからね。眠っている事も多いんだ」
「そっか、そうだよね…」

潤は肩を落として、ベッドの中のにのをそっとうかがった。にのは目を閉じていた。

「しかし、常時アンドロイドと繋がっている状態にはしてある」
「えっ、なんで?それじゃ疲れないの?」
「彼がそう望んだからね」

確かに脳への負担は計り知れないだろう。
けれどアンドロイドの目を通して世界を見る事を知ってしまったのだ。
もう二度と会わない、会えないと思っていた大事な仲間たちの日常を垣間見た時の衝撃と喜び。
にのがのめり込むのも無理はない。

「目が覚めてさえいれば、もうずっとアンドロイドの中に入りっぱなしでね。君たちとの時間を噛みしめていたようだよ…」

繋げられたたくさんのコードはそのためだったのだ。ほぼ身動きできないその身体で、カプセルベッドにこもったまま、アンドロイドの身体を借りて味わう外の世界。
つかの間の儚い夢…。

考えただけで胸が苦しい。
雅紀は握っていたにのの手をもう一度強く握り直した。そして初めてアンドロイドに会った時のことを思い出していた。

つるんとしたボディに黒髪のアンドロイド。
俺を「まーくん」と呼んだ。確かにあの時、にのみたいだと感じた。
そんな瞬間は何度もあった気がする。
にのだったんだ、本当に。
あの時、「にの、なの?」と聞いたら、

「そうだよ、そんな事もわかんないの?」

そう返されたんだった。今思えばちょっと不服そうだった気もする。そうか、そうだったんだ。
「まーくんはバカなの?」とも言われたが、あれはいつだったろう…。

雅紀は唐突に思い出した。それを言われたのは、夢の中と勘違いしてにのにキスをした時だ。
一気に頭に血がのぼる。

あの時はどっちだ!?
アンドロイドか、にのか?
ヤバいヤバいヤバい…!
にの本人だったら、俺の気持ちがバレバレになってしまう…。

猛烈に動揺して、額だけでなく手にも汗をかいた。それを握られた手で感じたのか、にのが目を開けて雅紀をじっと見上げてきた。その上目遣いで更に思い出す。

いや、でも待てよ。
もっと前だけど、先にキスしてきたのはアンドロイドの方だったよな。突然でびっくりしたもん。
え?あの時は?
どっちだ、どっちなんだよー!?

雅紀はすっかり混乱して、頭がクラクラした。