アンドロイドの言葉についムキになってしまったが、本当に目を覚ますのだろうか。
唇を離してそっと様子をうかがう。
わずかに瞼が震え、ゆっくりと開かれる。
まるで花の蕾が開く様を早送りで見ているかのように、鮮やかに、あれほど恋焦がれた本物の茶色の瞳が現れる。
まさか本当にキスで目を覚ますとは。お伽噺の奇跡か、はたまたこれは夢なのか。
雅紀は一言も発せずにその瞳に見入った。
そこには自分の姿が間違いなく映っている。
夢なら覚めないでくれ。
雅紀は溢れた涙もそのままに、瞬きもせず見つめ続けた。
「…………まーくん?」
かすれた、囁くような声。
あの最後の電話で聞いた声に少し似ている気がした。雅紀は何度も頷いた。喉の一番上までナニか大きな塊が詰まっているみたいで、上手く返事が出来ない。だから白い小さい手を握った。
「なんで……」
にのの吐息のような問いかけに、必死に答えようと雅紀がさらに前のめりになったところで、
「ええっ!!にの!?」
「ここにいたんだ!?」
「にのお!!」
さっきまで揉めていた翔たちが、部屋になだれ込んで来た。智にまだ胸ぐらを掴まれたままの本郷までひっぱりこまれている。
雅紀の姿が見えないのに気がついて、隣の部屋のドアを開けたのだろう。突然の本物のにのの出現に皆、パニックになった。
「どうなってんだよ??」
「生きてる!?生きてんだよなあ!?」
翔はアンドロイドを質問攻めにするし、智は本郷とまだ揉めるし、潤はベッドにすがりついて大泣きするしで、またまた大騒ぎになった。
「きみは知っていたのか?」
翔がアンドロイドに詰め寄った。
アンドロイドは返事をしない。ただ入口のドアを見ている。焦れた翔が「なあ!」と声をやや荒らげた時、
「静かにしないか。ここは病室だよ」
よく通る声が響いた。
部屋が静まり返る。
その声に聞き覚えがある事に翔が驚いて、弾かれたように入口のドアを振り返った。
そこには三浦医師の姿があった。
「嘘だろぉ……」
慕っている恩師。
いつだって親身になってくれた。
にのの事を聞いても、いつも「すまない」と頭を下げていた三浦医師。
翔は膝からくず折れそうになるのを必死にこらえた。智と潤は動きを止めてポカンと見つめている。
そして雅紀は、無言で三浦医師を睨みつけ、両手でにのの小さな手を握りしめていた。