アンドロイドを『にの』そっくりにすると思ったから、おまえに預けた。

本郷にそう言われて、智は動揺を隠せない。
みんな驚き言葉が出ず、少しの間その場がしんと静まりかえった。

「どどどどういう事だよっ」

やっとのことで智が言葉を絞り出し、本郷の胸ぐらを掴んだから、またもや翔と潤が智に飛びついた。もっとも潤は加勢するためだったが。

「おまえ達が大事な『にの』を失って悲しんでいると聞いていたからな。やると思った」
「は、はあ?なんだよ、それ!?」
「昔から器用な奴だったよな、おまえ」
「うっせーや!わけわかんない事言って、誤魔化そうったってそうは行かないんだからなあ!」
「そうだそうだ」
「潤、煽るなよ!」

ぎゃいぎゃい揉める智たちを呆然と見ていた雅紀だったが、すぐそばで「まーくん」と呼ばれ飛び上がった。

「…え」

いつの間にかアンドロイドが横にいて、雅紀の手を取っていた。雅紀が続けて言葉を発する前にアンドロイドが囁いた。

「にのは帰りたい」

茶色の瞳がまっすぐ雅紀を見つめている。

帰りたい、って言った?
そりゃそうだ、そうだよな!!
本郷がなんと言おうが、今は俺たちの『にの』なんだから。『にの』自身がそう言ってるんだからな!

雅紀は興奮で顔を赤らめながら、両手でアンドロイドの手を握りしめた。

「わかった!帰ろう!」

しかし雅紀の勢いとは裏腹に、アンドロイドはうつむいた。

「たぶん、帰りたいんだと思う」
「たぶん?」
「決められないんじゃないかな。まーくんなら説得できると思う」
「……説得?」

言葉の意味はわかるのに、何を言われているのか理解できない。雅紀は心臓を締めつけられるような不安に襲われた。

「なに言ってるの…」

アンドロイドは質問には答えずに、雅紀の手を引いて隣の部屋へいざなった。
そこには見覚えのある大きなカプセル。
雅紀は息を呑んだ。
忘れもしない、脳裏に刻みつけられた忘れられない光景。
最後ににのを見た時、治療のために入っていたカプセル型のベッドだ。生気のない真っ白なにのの、苦しそうな顔を思い出し、雅紀は全身を震わせた。