智が秒で鍵を開け、扉の隙間から中を覗く。
人気がなく静かだ。非常灯だけが寂しくぼんやりと点っていた。
翔たちは暗視用のゴーグルを着け、するりと中に入り込んだ。
「…誰もいないようだな。やはり使われていないのか」
そう独りごちる翔の後ろで、潤が「ほんと智って手癖が悪いなぁ」とニヤニヤした。そう言われた智は「稀代の鍵師と言え」と口を尖らせた。
そんな二人のやり取りに、雅紀はほんの少し緊張がとけて、落ち着こうと深呼吸した。
「タング、にのはどこに見える?」
「ズットおく、チカにいル!」
「地下室があるのか…」
一階のあちこちにある古びたドアにはすべて鍵がかかっていなかったが、一番奥の扉だけが施錠されていた。
智がまた嬉々として針金を取り出したが、小さく舌打ちをして、すぐに潤を振り返った。
「ここのはただの鍵じゃねぇな。暗証番号が必要みたいだ」
「え?こんなボロなドアに?」
「どうも見た目だけみたいだぞ」
「って事は…」
潤はパソコンをカバンから引っ張りだして、「ココには何かあるって事だねっ」と速攻、タングとドアとパソコンを繋いで解析し始めた。こんな時にもこのロボットは役に立つようだ。きっと戦場でもたくさんのドアを開けてきたのだろう。
ほどなく解読された暗証番号でドアが開かれる。開けた先にはには地下への階段が続いていた。
静かに階段を降りることができないタングを見張りとして残し(もちろん駄々をこねた)、四人は息を殺してゆっくり下へ降りていった。
放置状態だった一階とは違い、地下は照明も空調も完備されており、絶え間ない電子音と消毒臭で満たされていた。
壁伝いに廊下を進み、たどり着いた部屋のドアに張りつく。ドアには強化プラスチックらしい、少し曇った窓がついていたので、翔と雅紀がそこから中をうかがった。
「…にのっ」
思わず声を漏らしそうになった雅紀の口を素早く翔が手で塞いだ。
アンドロイドのにのだ。
本当にいた。
真っ白な愛おしい横顔。
しかし、これまでの様子とはだいぶ違い、真っ黒な髪の毛をキレイに編み込みリボンを着け、いつもの本物のにののダルダルのシャツではなく、可愛いメイド服を身につけていた。
そのせいで、雅紀は中に飛び込みたい衝動を抑えることができたとも言えた。
もっとも本物のにののメイド服姿を見た事がないわけではない。情報屋のにのは、よく変装して情報収集していたからだ。茶目っ気たっぷりに愛想を振りまいていたのを思い出す。
けれど、目の前のアンドロイドのにのの横顔は、無表情でむしろ悲しげにさえ見えたのだった。