「翔ちゃん?ねえ、なんなの、にのは!?」
翔の険しい表情に、雅紀の顔も引き攣る。
パソコンの画面を見つめて、翔が低い声でつぶやいた。
「所有者が変更されてる…」
え?どういう事?
一瞬意味がわからなくて、雅紀は口ごもった。
「にのの持ち主が智くんじゃなくなってる。だからにのの所在が追えないんだ…」
にのの所有者は智のはず。
代金こそ翔が出したが、アンドロイドは五人で活動するチームARASHIのために買ったので、智が「翔ちゃんでいいじゃんか」と渋るのを、リーダーだからと皆で押し付け…いやお願いしたのだ。
「じゃ、じゃあ誰が持ち主になってんの?」
アワアワする雅紀の手元から「ぉーーぃ」と声がする。そうだ、リーダーと電話中だったんだ。慌てて翔の目の前に電話を突き出す。
「とにかく一旦集まろう!」
翔の一声が響いた。
夜の診療所で四人が顔をつき合せる。
翔と潤はパソコンに張りつき、雅紀は椅子の上でカチカチに固まり、智は困った顔で腕を組んでため息を漏らした。
「だから、友達じゃねーし」
そうなのだ。
なんと驚いたことに、アンドロイドの今現在の所有者は、本郷博士になっているという。そもそもあのアンドロイドを持ち込んだのが本郷博士なのだから、本人の元に戻っている事になる。
「でも前に、どっかの研究所で一緒だったんだろ?知り合いじゃん」
潤のもっともな質問に、智は「知り合いと友達はちげーだろ」と、またため息をついた。
「俺さぁ、あんま真面目な研究員じゃなくてさ。端っこでこっそり絵を描いたり、ちょっとした製作物作ったりしてたんだ」
よくもそれでクビにならなかったものだと、心の中で翔は呆れたが、もちろん顔には出さない。黙って続きを辛抱つよく待つ。
「そん時に、『上手いもんだな』ってアイツに言われたの。そんだけ」
「それだけ?」
「そんだけ」
だから連絡先も知らないと言われて、身を乗り出していた潤がガックリ肩を落とした。
そんな本郷博士がどうして智の前に突如現れたのか。翔は無言でアンドロイドを取引した時に渡されたという電子契約書を改めてながめた。
そして気がついた。
「これ、売買じゃなくてリース契約なんじゃ…!?」
診察室が静まり返る。
皆がみな、お互いの顔をじっと見やった。
「あ〜!どおりで安いと思ったあ!」
智が、納得がいったという顔で叫んだ。
その後大騒ぎになったのは言うまでもない。
代金は振込み済み。リース期間は空欄。連絡先は架空なのか既に繋がらず。
勝手に押しつけて、勝手に回収して行ったということなのか。
「つまり、にのの所有者はずっと本郷だったのかもしれないな。俺たちは持ち主じゃなくて借主…」
「あんの野郎ーー!」
今度は納得がいかないと見えて智が叫んだ。
翔はちゃんと確認しなかった自分に腹を立て、頭を抱えた。
「…にのは?にのは今どこにいるの」
雅紀の声は震えていた。