翌朝、雅紀がベッドで目を覚ますと、隣で寝ていたはずのアンドロイドはもういなかった。もっとも雅紀が寝入ると、充電のためにベッドを抜け出すのはいつもの事である。
まるで添い寝をしてもらう幼児のようで、少しばかり恥ずかしいような気もする。

用意された朝ごはんを食べていると、アンドロイドが台所に入ってきた。

「まーくん、おはよ」

いつもなら翔の手伝いをしている時間なのに、白衣を着ていない。

「使った食器はシンクに置いておいてね。あとで洗うから」

熱いお茶のおかわりを注いでくれたアンドロイドは、たくさん焼き菓子が入ったバスケットを手に持ってそう言った。

「……どっか行くの?」
「工房だよ。ちょっとね、リーダーと潤くんにお願いしてる事があるの」

アンドロイドはニコッと笑った。
口角がくるんと上がる可愛い笑顔。にのと同じ。いつ見てもドキドキする。

「いってらっしゃい」

まだ食べ終わってないのに、雅紀はついつい玄関まで見送りに行ってしまった。
アンドロイドは「いってきまーす」と小さな手をひらひらと振ってくれた。バスケットをかかえて歩く姿は、まるで赤ずきんちゃんのようだった。


食後、雅紀は使ったお皿を洗った。
遠ざかるアンドロイドの後ろ姿が、なぜか忘れられない。
本物のにのもどちらかと言えば小柄だが、アンドロイドのにのは更に小柄だ。しかし、離れて見れば本当にそっくりで。ハッと胸を突かれる想いがする。

これからどうしよう。
何をすればにのに会えるんだろう。

昨日のことを思い出して、また気が沈んだ。
そこへ、診療所から戻ってきた翔が顔を出した。

「にの、出かけた?」
「出かけたよ」

翔が雅紀の顔を心配そうに見るので、

「お菓子の入ったバスケット持ってて、赤ずきんちゃんみたいだった」

雅紀はできるだけ明るく答える。
翔は「ぷはっ!」と吹き出して笑ってくれた。


しかし、あとから考えれば、この例えは賢明ではなかったのかもしれない。
なぜならば、赤ずきんちゃんはオオカミに襲われるものなのだから。

実際アンドロイドのにのは、その日帰ってこなかったのである。