その夜もアンドロイドは、風呂上がりの雅紀を待ち構えていて、濡れた髪の毛をドライヤーで乾かしてくれた。

「ありがとね」

礼を言って、いつものベッドに戻ろうと廊下を歩いていくと、なぜだかアンドロイドがついてくる。そのままゲストルームにまで入ろうとするので、驚いて押し止めた。

「え、どうしたの」
「一緒に寝る。寝てもいい?」
「…は、はあ!?なんで?」

あんまり驚いて声が裏返ってしまった。
アンドロイドは小首をかしげて見上げてくる。潤んだような瞳はまっすぐ雅紀を見つめていた。

「まーくんはいつも、にのと一緒に寝ていたんだよね?翔ちゃんが言ってたよ」

雅紀を「まーくん」と呼ぶようになると同時に、翔のことも「翔ちゃん」になり、少しヤキモチを焼いてしまう雅紀である。自分でも情けない。

「そうだけど。だからってさ…」
「くっついて寝ると安心するんでしょう?」

確かに小さい頃から、にのとはひとつの狭いベッドで子猫みたいにくっついて寝ていた。そうしないとなんだか落ち着かなくて、にのの体温を感じることで眠れていたのだった。

「一緒に寝たら、お薬飲まなくても寝られるかもしれないじゃない?」

そう。あの事故以来、雅紀は睡眠薬ナシでは眠れなくなってしまっていた。しかも薬を飲んでも、夜中に何度か目が覚めてしまう。
睡眠の質の低下が、より雅紀の気力を奪っているのは間違いないのだ。

「ええと、少し表面温度を上げておくね。これくらいが落ち着くのかな?どう?」

アンドロイドは雅紀にふわりと抱きついて、温度の確認をしてきた。まだ一緒に寝るという展開にも追いつけていない雅紀は、抱きつかれてその場で固まっている。

「え、ええ、いや、なんて言うか…」
「ま、いいっか。ほらお布団に入って」
「えええええ」

さすがはアンドロイド。軽々と雅紀を抱えてベッドに寝かせてくれた。本物のにのにはできない力技だ。そのまま布団を掛けると、アンドロイドはごそごそ潜り込んできた。

「じゅ、じゅ、充電はどうするの。夜中にしてるんでしょ」

いつも夜中に椅子型の充電器に座って充電しているらしい事は知っていた。でもアンドロイドは特に気にする様子もなく、

「大丈夫。予備のバッテリーあるし。急速充電もできるから」

などと言って、すっぽり雅紀の腕の中に収まって丸くなっている。
雅紀はもうどうしていいかわからず、緊張で今度はベッドの中で固まってしまった。

どうしようどうしよう
俺の心臓のバクバクが伝わってしまう…。
こんなんじゃ、かえって眠れないじゃんか。

腕の中のアンドロイドは、「なに緊張してんの」と小さく笑ったきり、目を閉じてじっとしている。雅紀は固まったまま目だけで、そんなアンドロイドの様子を盗み見た。

よく知ってる見慣れた寝顔。
にのへの気持ちを自覚してからは、見るのが少しばかり辛くもある可愛い寝顔。
喜びと葛藤とに毎晩苛まれる、けれど甘い、そんな時間が思い出される。

雅紀はおずおず、にのの髪に頬を寄せた。