アジフライを智と潤に届ける…という口実で飛び出してはきたものの、足取りは重い。
にのを失ってからの雅紀は、二人の工房には顔を出していない。それどころか、せっかく会いに来てくれた二人の前でも、布団を被ったままな事も多かった。
のろのろたどり着いた工房は、前と変わらずオイルの匂いが充満し、隅にガラクタ(にしか見えない)が山積みだった。
懐かしさと気まずさに躊躇していた雅紀の足元に、古いラジコンカーが走ってきてトンッとつま先に当たった。
「お、雅紀じゃないの!」
智の声がした。彼の声はいつだって優しく、ふんわりしているのだ。その声に引かれるように、雅紀は工房に足を踏み入れた。
「…ラジコンとか懐かしいね。こんなのも修理してるの?」
「そっ!近所のガキんちょに頼まれてな。昔のは味があっていいよなぁ」
おじいちゃんのおもちゃだとかで、ちびっ子が持ち込んだと言う。変わらない智に雅紀も少し笑顔がこぼれた。
「あ!まーじゃん!」
そんな二人を見つけた潤が奥から走ってきた。雅紀の手にある紙袋を目ざとく発見して、早速中を確認。彼は目力だけでなく、鼻も利くのだ。
入っていたアジフライを一口かじって、
「うまっ!まーが作ってくれたの?」
「え、いや、違くて…」
「ソース!ソースかけたいっ」
潤は袋を抱えて走り出す。工房についているミニキッチンに走り去るその背中に、「おーい、俺の分残しとけよー」と智が声をかけた。変わらないいつもの二人。隔てていたはずの時間も、そこにはなかった。
「茶でも飲むかぁ」
雅紀は滲んだ涙を手の甲でこっそり拭って、誘われるまま奥へとついて行った。
「うめぇな」
バクバクがっつく潤の横で、智が満足そうにアジフライを見つめた。
「あの子が作ったんだろ。雅紀のによく似て、コショウが効いてる」
「そりゃそーだよ。すでに入ってるレシピに俺がまーのを足したんだもん。けどさ、俺、ややこしい料理のはわかんないからさ、まーにレシピ書いてほしいんだよね」
頬にソースをくっつけた潤が雅紀にそう言った。全く屈託がない。一番年下の彼は純粋なのだ。
「え…」
「あ、もちろんまーが作ってくれるんならそれが一番いいな!そんで、にのに教えてくれたらあの子覚えるよ」
雅紀の脳裏にあのアンドロイドの顔が浮かぶ。にのそっくりのあの子。
雅紀は飲みかけのお茶を置くと、ずっと気になっていた事を口にした。
「ねえ、あの子、どうやって手に入れたの?」