「だって俺、ずっと待ってたんだよ?そりゃ、マスター達の三十年に比べればたいした事ないかもしれないけど。人生のほとんどを待ってたって言ってもいいくらい」
それを言われると、ほんと申し訳ない。
俺は、俯いているまーくんにぴとりとくっついて、肩に頭をすりすり擦りつけた。
「もうまわり道はしたくないんです」
まーくんは顔を上げてマスターに言った。それはそう。俺も合わせるようにコクコク頷く。マスターはそんな俺たちを見て、
「そうだな。気持ちはよくわかるよ」
と、言ってくれた。笑顔が優しい。
大昔二人でひとつだった人間が、神様にふたつに裂かれてしまったという愛しい片割れ。
俺だって、せっかくその相手を見つけたんだ。のんきに遠回りなんてしたくない。無理は禁物だけどね。
「そうなんだけど、まぁ、まわり道もたまには悪くないよ」
マスターがカウンターを拭きながらそう言った。俺たちは顔を見合わせ、きょとんとする。
「人生の先輩からのアドバイスってところかな。さすがに君たちの倍は生きてるんで」
「まわり道かぁ。まわり道してマスターはなんかいい事あったの?」
俺が質問したタイミングで、お店の入口のドアベルがカランと鳴った。
「えりかに出会えたよ」
マスターの優しい目線の先には、ドアを開けて入ってくるえりかちゃんとせいさんの姿があった。
「ただいまー!」
お店の中にえりかちゃんの明るい声が響いた。俺とまーくんに気がついて、「かずなりとまさきだ!」と駆け寄ってくる。相変わらずの名前呼び。でもそこも可愛いんだよな。
「まさき、元気になった?」
「なったなった。かずが助けてくれた」
「かずなりが??」
「え、俺?」
俺、何かしたっけ。
ぽかんとまーくんを見ると、
「かずがね、お星様に助けてってお願いしてくれたんだよぉ」
「えー、すごーぃ!」
げげげ。なんで知ってるんだ?
病院の屋上で叫んでたの、聞かれた?
うろたえる俺に、まーくんがへたくそなウインクをしてきた。
それ、できてないから!