久しぶりにマスターのお店に来た。
もちろん、まーくんと一緒だ。
「再発しやすいんだって?」
自然気胸で入院した事は、バイトを休む時に報告済みだったが、マスターはそう言って心配そうな顔をした。手元では、コポコポと音を立ててコーヒーがドリップ中。よい香りが流れてくる。
「らしいんですよ。だから、ほんと申し訳ないんですけど」
まーくんは手を合わせてぺこりと頭を下げた。とりあえずバイトは家庭教師だけに絞って、しばらくは学童関係もマスターのお店もやめておく事にしたからね。
「俺は大丈夫だと思うんスけど、コイツがうるさくてうるさくて…」
まーくんは困ったふうに言って、俺の頭をぽんぽんした。顔、笑ってんじゃん。
だって仕方なくない?あんな苦しそうな姿を見たらさあ。心配して当然だっての。
でも俺は頭の上の手をぺいっと跳ねのけて、口をとがらせた。
「なんだよぉ、俺のせいなの?」
「マスターも一人で大変だしさ。もっかい考え直さない?」
「週一じゃん。役に立ってる訳?」
「まぁちょびっとは!それに俺、ここでいろいろ学んでるしさ」
「はあ?」
俺はその今更な言いぐさに呆れて、「なにを学んでんの」と言い返したら、「人生!!」とか目をキラキラさせて答えやがる。
いつものカウンター席でちょっと二人でごちゃごちゃ揉めて、マスターに「まぁまぁまぁ」となだめられた。
「店は大丈夫だよ。せいの奴が手伝ってくれてるからね」
「え、せいさん美容院辞めちゃったの?」
「いやいや、時短にしてもらってるんだよ」
えりかちゃんの盲腸以来、そうしているんだって。えりかちゃんの体調の変化に気がつけなかった事を、すごく悔やんでいたもんな。できるだけお家に居て、目を光らせているらしい。
「心配症っていうか、過保護っていうか」
「うわ〜、かずと一緒!」
「頑固だしな」
「そうそう!」
なんでだよと顔をしかめてみせたけど、俺にはせいさんの気持ちがよくわかる。
元気になったからいいようなものの、先の事はわからない。最悪な事になってから後悔したって遅いんだからな。