まーくんの入院は一週間くらいだった。
その間、俺はアパートの部屋で過ごした。
実家に帰ってもよかったんだろうけど、なんだかそれは違うような気がしたんだ。
だって、ここが俺たちの部屋だし。大事な居場所なんだから。ここでキチンと生活しようって。
だから、掃除もゴミ出しもちゃんとしたし、大学も行って真面目に講義を受けた。そしてバイトは早めに帰らせてもらって、毎日病室に顔を出した。
途中から大部屋に移ったから、あんまりイチャイチャできなくなっちゃって、ちょっと残念。
そうは言っても、しょっちゅう看護師さんが検温だ、機械のチェックだと見に来るし、そうそうベッタリはできないんだけどさ。
一度、あんまり眠くて身体半分くらいまーくんの掛け布団に潜らせて寝てたら、さすがにびっくりされたな。
大部屋では面会時間を超えては居られないってのが、一番痛かった。一緒に住んでなかった時より制限が厳しいんだもん。
今日だって、あと30分しかいられない。
カーテンをぴっちり閉めて、俺はまーくんの手に猫のように頭をすりつけた。
「かず、ちゃんと夜とか鍵かけてる?」
「かけてるよ」
「夜は、誰が来ても開けちゃダメだかんな」
「大丈夫だって」
俺は留守番の子どもかって言うくらい、まーくんはあれこれ心配する。他人が聞いたらあきれるレベル。こうゆうのを過保護って言うんだな。
「そうだ。あのおじさんがうちに来たよ」
「お、おおおじさん!?」
「ほら、救急車呼んでくれた人」
「…あー、あの人。二つ隣の人ね」
まーくんはそう答えながらも、やっぱり心配顔。まぁ俺もなんとなく苦手だったしね。
「おじさん、まーくんの事心配してたよ。そんで、俺にとんかつくれた」
「と、んか、つ??とんかつ!?」
まーくんが目を白黒させる。
俺もおじさんの前でそんな顔をしたと思う。
「それがさぁ、俺、あの日カツ丼にしようと思ってとんかつを買ってきてたの。でも救急車来たりして気が動転して、その袋を置いてっちゃったみたいでさ」
たしかに病院に着いた時、俺はお惣菜屋さんのビニール袋を持ってなかった、と思う。てか、その存在自体が完全に吹っ飛んでた。
おじさんがその袋を拾ってくれたらしいけど、俺たち帰ってこないし、もったいないから食べたって。それでわざわざ買いなおして、持ってきてくれたんだ。
怖そうなおじさんだと思ってたから、ちょっと意外だったよね。