「かずに余計な心配させたくなかったから」

って、まーくんは言うけど。
いやいや、その気持ちはありがたいよ、ホントに。でもさぁ、それは違くない?
二人で住んでるんだよ、まーくんだけに負担してもらうなんておかしいよね。

「俺、お姫様じゃないんだけど」

俺の言葉にまーくんが一瞬真顔で俺を見る。
え、嘘。まさかそんな事思ってないよね?こわいコワイ。

「俺もちゃんと家賃払うよ」
「あの部屋借りてるの俺だから俺が払う」
「なんでだよ、一緒に住んでるのに!俺だってキチンとした…」
「やっぱり一緒に住んでるの?」

言い合う俺たちの間に、おばちゃんが割り込んできた。不思議そうなその顔は、目元がまーくんにそっくりだ。

「え、いやっ」
「この前部屋に行った時も、朝なのにかずくんいたものね」
「いいい入り浸ってるっていうか、ずっと居るっていうか…居心地よくて、あの」

しどろもどろな俺の声がだんだん小さくなる。
どうしよう。まーくんはおばちゃんになんと言ってるんだろう。そんな事もちゃんと話し合ってなかった。
俺、なぁんにも知らないんだな。
気がつきもしない自分にがっかりする。

「ほぼ一緒に住んでるよ」

まーくんが堂々と言ってのけたので、俺のほうが慌てて腰を浮かしかけた。
えぇ!いいの、そんなハッキリ言っちゃって。大丈夫なの?

「だって一緒だと楽しいからね!」

それは、えりかちゃんに「なぜ一緒に住むのか」と聞かれた時に答えたヤツじゃん。えりかちゃんには通用したけどさあ。

「そうね、一緒だと楽しいわよね」

おばちゃんはそう言ってにこにこ笑った。
…………おばちゃんにも通じるんだ。
気が抜けて、俺は丸椅子の上で脱力した。
そりゃそうか。まさか俺たちが恋人同士だなんて思わないよな。ホッとするような、寂しいようななんとも言えない気持ちになった。

「かずくん。雅紀のことよろしくね」
「あ、はい!もう無理しないように気をつけて見張ります!」

知らず丁寧語になっていた。
一緒に暮らすって、きっとそういう事。自分のことだけじゃなくて、相手のことにも責任を持たなきゃならないんだ。
もっとちゃんと話そう。そしていろいろ決めるんだ。お金のことも家事の分担も。

「なんだよ、見張るってー」

そんな俺の横で、まーくんがぼやいていた。