俺はもう涙が止まらなくて、びしょびしょになった顔を鼻水ごとまーくんの寝巻きに擦りつけた。「おいおい」と口では文句を言いつつ、やっぱりまーくんの目は笑っていて、また頭をよしよしされた。
あぁ、気持ちいい。

このままベッドにもぐりこみたいな…。あっち側の穴は怖いけど。

なんて思っていたら、病室のスライドドアが開いて、おばちゃんが戻ってきた。その音に俺は飛び起きて、瞼が腫れてるんじゃないかと目の辺りをこすった。とりあえず、ちゅーしてるとこを見られなくてよかったよ。危なかったあ。

「あら、かずくん。戻ってたの」

おばちゃんはだいぶ落ち着きを取り戻したみたいで、処置が無事済んだこと、しばらく入院することなどを教えてくれた。

「俺、なんも気がつかなくて、ごめんなさい。無理してるってちょっと思ってたのに」
「かずくんは悪くないのよ、雅紀が頑固っていうか、意固地になってたんだから。おばあちゃんもあきれてんのよ」
「……え?」
「ちょっと、母ちゃん!」

んん?なんの話?
まーくんのおばあちゃんがあきれるってどういう事?
ベッドの上のまーくんを見ると、明らかに目が泳いでる。なんならおでこに汗まで滲んでた。俺は身を乗りだして、まーくんの泳ぐ目線を追いかけた。

「なんで目をそらすの」
「いや、そーゆーわけじゃ…」

みなまで言わせず、俺はおでこをくっつける勢いで目線を合わせた。よく考えたらこの体勢、せっかく回避したのにちゅーしてるみたいで、ちょっとヤバかったのかも。
そんな俺の様子に、まーくんが語ったことは。

「え!家賃払ってたの!?」

なんと、おばあちゃんから免除されたと言っていたアパートの家賃を、毎月キチンと払っていたんだって。

「おばあちゃんはいらないって断ってるのに、毎月無理やり置いていくんだって。そんなに払いたいのなら、出世払いでいいって言われたでしょ?ほんと頑固なんだから」
「だってそこは、ちゃんとしたいからさぁ!ばあちゃんだって道楽でやってんじゃないでしょ?」
「半分道楽みたいなものよ。困ってないし」

揉める親子をボーゼンと眺める。
いや、まーくんらしいよ、そーゆーところ。
俺だって甘えちゃっていいのかなって思ってたもん。
けどさ、けどさあ!それならそれで、なんで言わんの。話してくれたっていいじゃん。てか、話すべきじゃない!?