菅田との電話が済んでも、俺はしばらく屋上で風に吹かれながら空を眺めていた。
「もう閉めるぞ」
本郷に言われて、俺は階段を下りた。
更に、「もうそろそろ処置も終わってるんじゃないか」って言われたから病室に向かおうとすると、本郷は反対方向に歩いていく。あれ、そっちだったっけ?俺は後を追おうと小走りになった。
「なんでついてくる。病室は向こうだ」
「どこ行くの」
「もう用はないから俺は帰る。じゃあな」
そう言うと振り返りもせずにスタスタ行ってしまった。えぇー、そんなあっさり?ほんと、本郷って優しいのか冷たいのか、よくわかんないや。
俺はため息をひとつついてから、まーくんの病室へ急いだ。
でも部屋の手前で足が止まる。
早くまーくんの顔を見たいのに、なぜかこわい。緊張して胸がバクバクした。
と、中からおばちゃんと看護師さんが、なにやら話しながら出てきて、そのまま廊下を明るい方へ歩いていった。おそらくナースセンターがあるんだろう。
二人が行ってしまってから、俺はスライド式のドアの取手にそろりと触れた。そしてノックするのも忘れて、俺はドアをほんの10cmくらい開けて中をうかがった。
まーくんはベッドに横たわって目を閉じていた、すぐそばに何かの機械が備えつけられていて、静かに稼働している。本郷が言っていた胸に入れたチューブで繋がっているんだろうか。
視線を戻したらまーくんと目が合った。
「かず」
まーくんが俺を呼んだ。
本当は声は出ていなかったのかもしれない。だけどまーくんの口は、間違いなく俺の名前を形作っていた。
「まーくん」
さっきまでのしり込みはどこへやら、俺はまーくんの元にすっ飛んで行った。