本郷にドアの鍵を開けてもらって、俺は広い屋上に転がるように飛び出した。
少し湿気を含んだぬるい風が吹いている。
見上げた空は、地上の明かりを受けて薄白く光る雲がゆっくり流れていた。その合間からぽちぽちと星が覗いているのが見えた。
空は繋がっていると言っても、菅田が見ている空に比べたらやっぱり見え方は全然イマイチなんだろう。
それでも俺は、星が流れないか必死に夜空に目を凝らした。
そうやって空を見上げていたら、だるそうに布団の上に横たわっていたまーくんの姿が浮かんできた。
あれは、ただ疲れていたんじゃなかったんだ。慣れないサッカーで身体のあちこちが凝ってしまって、動くのが面倒になってた訳じゃなかった。
今思えばあの時、いつもより手が熱かったような気もする。食べる量だって減ってなかったか?
ああぁ、今更遅いんだって。
何してたんだ俺は。なにを見てたんだ、なんにも見えてなかったじゃん。
浮かれてた。路上ライブにいい気になって。
調子に乗って歌ったりしてさ。それだけじゃなく作りさえしてたなんて、ほんとバカだろ。サイテーじゃん。
俺がのんきにしてた間、まーくんはがんばってたんだ。俺のために、2人の生活のために。
まーくんががんばり屋さんで、無理しがちなのをわかっていたのに。
考え出すともう止まらなくて、涙が溢れた。
これじゃ星が見えやしない。
俺は乱暴に目をこすって空を見上げ続けた、その時。つーっと細く光る線が一瞬目に入った。
「なななながれぼしっ」
慌ててお願い事をと思っても、マジで一瞬。
え、三回唱えるんじゃなかったっけ。
え、ムリじゃない??三回どころか一回も言えなくない!?
「もー!」
半ばヤケクソになった俺は、両手を上に突き出して、空に向かって叫んだ。
「まーくんを助けて、助けて、助けて!」
ずっと叫んでりゃ、いつか流れ星の瞬間に当たるだろ。こうなりゃ総当たり戦だっ。
「やめろ、うるさい」
ぶんぶん振っていた腕を本郷に掴まれた。