「まーくん!」

診察室のドアが開いて、車椅子に乗ったまーくんが出てきた。俺は飛んでいってまーくんの顔を覗き込む。くってりしていたまーくんが反応した。

「…かず」
「まーくん」

何を言えばいいのかわからない。
口からは勝手に「大丈夫?」って出そうになる。大丈夫なわけないじゃん。
涙声になりそうで必死に飲み込んだ。

「ごめんね、心配かけて」

なんでまーくんが謝るんだよ。
気がつかなかった俺だろ、謝るのは。
恋人失格。マジ最悪だよ。
我慢できなくて、勝手に涙が転がり落ちた。

「大丈夫だよ…」

まーくんの大きな手のひらが、俺の涙で濡れたほっぺたを優しく撫でた。温かかった。

そのまま看護師さんに押されて病室へ移動。
俺はまーくんのお母さんと一緒にエレベーターに乗り込んだ。ゆうくんは一旦家に帰るらしい。
そうだ、本郷は…と思ったら、まだ長椅子に座って本を読んでいる姿が、閉まるエレベーターのドアの隙間から見えた。

部屋は個室だった。
大部屋はいっぱいで、空いてないんだって。
もしかしたら、ただ救急車で来てもお断りされたのかもしれないな。そう考えると肝がひんやりした。危なかった…。

ベッドに寝かされたまーくんの周りで、看護師さん達がテキパキ作業を進めている。
俺とお母さんは部屋の隅でその様子を眺めているしかなかった。

「かずくん、この病院に顔が利くの?なんか、急いで処置してくれるんだって」
「え、いや、顔が利くっていうか…」
「幼稚園の頃も院長先生が手術してくれたけど、今回もやってくれるらしいのよ」
「しゅ、手術!?」
「ありがとね」
「えぇ、いや俺、なんも…」

ってことは、あの、なんだったけ、身体に穴を開けるとか言ってたのをするのか。うわあぁ、ゾクゾクする。俺は無意識に胸をさすっていた。
そこに、個室のドアが開いて医師らしき人が入ってきた。

「では、外でお待ちいただけますか」

思いのほか、柔らかい声だった。マスクで顔はよくわからない。
そうか、この人が本郷のお父さん?かな。
促されて廊下に出ると、そこに本郷が壁に寄りかかって立っていた。