救急車のけたたましいサイレンの音は、病院に着く前に静かになり、そのまま救急外来の入口に吸い込まれた。
到着と同時に、テキパキと看護師さん達によってまーくんは車椅子で検査に連れていかれた。薄く目を開けたまーくんは、不安そうに俺の顔を見て、よりいっそう強く手を握ってきた。

「大丈夫だよ」

俺も強く握り返してそう言った。
ほんとは大丈夫なのか全然わかんない。けど、そう言わずにはいられなかった。
カラカラと遠ざかる車椅子を見送って、ボーゼンと近くの長椅子に座り込む。

薄暗い廊下。
奥の待合室は今の時間さらに薄暗く、置かれたテレビが真っ黒な画面で沈黙している。
─────既視感。
そうだ、えりかちゃんの盲腸の時だ。やっぱりこんな感じだったな。あの時も本郷に電話したんだっけ。

「おい」

急にかけられた低い声に飛び上がった。

「ほほほ本郷」
「おまえはほんとに…。俺の事を便利屋としか思ってないだろ」
「…気がついたら俺、電話かけちゃってたんだもん」

本郷は少し間をおいてため息をついた。
まだまだ文句を言われると思っていたから拍子抜け。もう怒ってないといいなーと上目遣いで様子をうかがう。

「すぐにアイツの親に連絡をとれ」

三白眼で睨まれてまごまごする。
そっか、まーくんのお母さんに電話しないと。そんな事も気がつかないなんて、どんだけ俺は抜けてんだか。慌ててスマホを取り出した。

「何かしらの処置が必要になるかもしれない。だが、同意書にサインを貰わないと何も出来ないからな。早く来てもらえ」
「しょち?」
「胸が痛いと言ってたんだろ、呼吸が苦しいって。自然気胸かもしれない」

しぜんききょう?
え、なにそれ。そうだったら何するの?

「状態によってはドレーンを入れるかもな」

ドレ…?
ハテナ顔の俺に、本郷はサラリと言った。

「身体に穴を開けてチューブを突っ込む」

ぎゃあぁぁぁ!
それを聞いだけで俺は、あまりの恐ろしさに持っていたスマホを握り潰しそうになった。