バス停から走って帰る。
玄関で慌てて靴を脱ぎ、奥の部屋に入ると、すでに布団が敷かれていて、まーくんが寝転がっていた。ただし、まだ寝間着代わりのスウェットではなく、朝出かけて行った時の格好のままだ。

「ご、ごめん。遅くなっちゃって」

恐る恐るそばに寄って声をかける。
まーくんは半分眠っていたようで、だるそうに腕を上げて俺の頭を抱き込んだ。

「……ちょっと心配した」
「うん…ほんと、ごめん」

そうか。いつでも出られるように着替えてなかったんだね。急に目の前が霞んで、俺はまーくんの胸に顔を埋めた。勝手に出てくる涙を見られたくなかった。ごめん、ごめんね、まーくん。

「…………」

静かになったと思ったら、まーくんは寝息を立てていた。俺もそのままくっついて寝転がる。お風呂は明日の朝、シャワーを浴びればいいや。

疲れているはずなのに、なかなか眠れない。
頭の中に歌が流れっぱなしで、今日の路上ライブの様子が何度も鮮やかによみがえる。
思っているよりずっと、俺はコーフンしているみたいだ。

この時の俺は、できた歌を一番にまーくんに聴かせるつもりだったって事がすっぽ抜けてしまっていた。あとで気がついた時に心底後悔するなんて、思ってもいなかった…。
それくらいあの時の俺は舞い上がってたんだな。
実際、それからしばらく歌を作ることに心奪われて、路上ライブに足繁く通ったりしていた。


その日はめずらしく、菅田が路上ライブを早めに終わらせたから、俺は「今日なにかあんの?」って聞いたんだ。

「二宮くんさ、今夜空いてる?」
「今夜って、もう夜じゃん」
「真夜中の話。出てこれる?」

えぇ?真夜中?
聞けば、今夜はなんとか流星群が降る日らしくて、一緒に見に行こうというお誘いだった。

「はあ?なんで俺?」

いや、仲良くなったとはいえ、なんで菅田と流れ星を見に行かなきゃなんないの。それならまーくんと行きたいよ。もっとも、疲れ気味のまーくんを夜中に連れ出すわけにもいかないけどね。

「それがね、由里子ちゃんが、二宮くんも来るなら一緒に行ってもいいって言うんだよ」
「はああ!?」

俺が菅田と路上ライブをしてる事は、由里子ちゃんにも話していたらしい。
流星群見に行こうって誘ったら、「真夜中に菅田くんと二人きりなのはちょっと…」と渋られて、

「じゃあ二宮くんも一緒ならどう?って言っちゃったんだよね」

もー、なに勝手な事言ってんだよ。
てか、ほんとに菅田の恋はうまいこと行ってないんだなぁ。あきらめずに果敢にアタックする菅田の健気さに感心するやら、気の毒に思うやら。
そんな菅田に「お願い!」と手を合わされて、俺は断り切れずに「行く」と答えてしまった。

集合は真夜中の午前二時。
一旦アバートの部屋に帰りながら、ぶつぶつ言い訳を考える。まーくん、許してくれるかなぁ。